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Confinement

◇  外を歩いていると、ふと香る金木犀の甘い香り。秋だなと強く感じる。空気が澄んで、空も抜けるような青い晴天。まさしく秋晴れだった。  今の佑月には、その晴天さえも憎く思えてしまう。  そんな(すさ)んだ佑月が、今日最後の依頼を終え事務所へ帰る時、スマホが着信を知らせてきた。画面を見た佑月は直ぐに通話をタップする。 「もしもし、電話ありがとう」 『兄貴! こちらこそメールありがとうございました! まさか兄貴からメールくれるなんて思ってなかったから、何度も何度も画面確認してしまいましたよ!』 「そか、急にごめんね。この間のお礼も兼ねて声が聞きたくなってね」  元気そうな岩城の声が聞けて、佑月はひとまず安心した。 『そんな……声が聞きたいだなんて……。嬉しすぎる……』  何やらブツブツ言ってるが、佑月には聞こえない。 「もしもし? 健二くん?」 『あ、いや……何でもないです……あはは……』 「……そう? あ、そうだ、あのエリカちゃんとはどう?」 『エリカちゃんですか? それが、あれだけ毎日来てくれてたのに、三日程前から来てくれなくなりました……。やっぱりホテル行った方が良かったんですかね……』  やはり〝エリカ〟は来なくなった。岩城には本当に悪いことをしたと佑月は悔やむ。  佑月が原因で振り回されている一人でもある岩城。   ──内心で謝ることしか出来ない俺を、どうか許して欲しい……。  岩城を(なだ)め、通話を終えた佑月は、また一つ、大きなため息をこぼした。  事務所に戻り、帰り支度をしながら何度も見てしまう卓上カレンダー。何度見ても変わりはしないのにだ。  今日は四日。須藤が帰ってくる日。  昼頃に夜の便で帰ってくると、須藤からメールがあった。返事をしてないため、恐らく須藤は変に思っているだろう。  だが返事をするわけにはいかないしで、佑月の気分は益々落ち込んでいく。 「あのさ、陸斗、海斗」 「はい」  帰り支度をする二人に声を掛けると、花も含む三人の顔が佑月へと向く。 「知ってると思うんだけど、今日須藤さん帰ってくるんだよね……。でも、俺ちょっと喧嘩しちゃってさ……」 「え!? 喧嘩しちゃったんですか!?」  花が一番に驚いて大きな声を上げた。 「うん……。恥ずかしながら、かなり怒らせてしまったから、ちょっと今は会いたくなくて……。それで、もしかしたら俺を探しに二人のアパートに行くかもしれないんだ。その時は悪いけど、知らないって言っておいてくれないかな。本当迷惑掛けるけど……」 「それは全然いいんですけど……。佑月先輩は何処に行くんですか? それなら、オレらん家に来てくださいよ! 絶対に須藤は中には入れないんで!」  陸斗がそう言うと、海斗と花も大きく頷いている。  佑月とて、本当はこんなこと言わずに済むなら言いたくなかった。だが、須藤は必ず佑月のアパートに来るだろう。あんな安アパートのドアなど、須藤なら簡単に壊せる。  だからアパートに居るのはマズイのだ。そして佑月がアパートに居ないとなると、きっと須藤は双子のアパートへと、佑月の居場所を訊きに行くはずだ。  そうなれば、訳を知らない二人がかなり心配するのは目に見えている。だからそれを避けるためにも、敢えて言っておかなければならなかったのだ。陸斗の申し出は嬉しかったが、それも却って危険なため、何とか二人に分かってもらえるよう説得して、理解してもらった。  そしてメンバーは各々帰って行き、佑月も一旦アパートへと戻った。

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