191 / 444
Confinement 2
アパートの狭い一室で、佑月は一時間近くスマホとにらめっこをしている。早くしないと須藤がもうすぐ帰ってくる。メールには、羽田に着くのは二十一時半だと書いてあった。
羽田からここまで首都高使えば三十分掛かるか掛からないか。
佑月は時計に視線をやる。
二十一時四十五分。そろそろ電話をしないとまずい時間だ。
佑月は何度も何度も深呼吸をし、僅かに震え出した指で須藤の名前を画面に出した。
「早くしないと……」
万が一会ってしまうなんて事になったら、取り返しがつかない。溜め込めば溜め込むほど決心が鈍りそうで、佑月は一気に通話をタップした。
一……二……三……四回目でコール音が切れる。
『佑月か?』
全身が痺れそうになるほどにセクシーな声。何だか懐かしい気がして、佑月は泣きそうになった。
「はい……」
『メール、返事がないから心配したぞ』
「すみません……」
『なんだ……元気がないな。どうした?』
「え……? そ、そんなことないですよ……」
取り繕う元気もない声を素直に出してしまえば、そりゃ須藤も心配する。
だがもう会わないのだから、どう思われようが関係ないと佑月は唇を噛む。
『まぁいい。後で会えば分かるからな。二十二時半くらいにはそっちに着く。迎えに行くから、ちゃんとアパートにいるんだぞ。分かったな』
相変わらず須藤は佑月の予定は頭にない。そんな相変わらずの須藤に、佑月は可笑しくて少し笑いそうになった。だけどそれと同時に、佑月の胸は張り裂けそうに痛んだ。
──やっぱり会いたい……。めちゃくちゃ会いたい。
会ってちゃんと須藤の顔を見て「おかえり」と言いたい。 だが直ぐに佑月の頭に浮かぶ、颯と岩城……陸斗たち。そして日にちが経つ程に痛みが増し、ズキズキと疼く火傷の痕。
「……須藤さん」
震えそうな声を必死に抑えようとするが、佑月の声は今にも泣きそうで、情けない音になる。
『……佑月?』
「ごめんなさい……会えないです」
少しの間が出来る。きっと須藤の眉間にはシワが寄っていそうだ。
『会えないって、予定があるのか?』
「いえ……予定はないです。でも、会えないんです。今度の六日の日も……ずっと……」
『ずっとだと? どういう事だ』
須藤の声色が変わった。明らかに怒りが滲んだ低い声。本当は、こんな声が聞きたいワケではないのに。
「だから……もう二度と会えないってことです」
『そんなことを訊いてるんじゃない。訳を訊いているんだ』
ダメだ。須藤が相手だと、納得させられる言葉が見つからない。
そして受話口から『真山急げ』と命令してる声が聞こえて、佑月は焦った。
「と、とにかく、もう俺のことは忘れて下さい! 今までありがとうございました。さようなら」
『何を言ってる佑月! おい──』
早口で言う佑月に被せ、怒鳴る須藤だが、佑月は直ぐに通話を切って電源を落とした。
そして急いで、必需品をまとめていた鞄を手に持ち、アパートから出て行った。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!