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Confinement 8

「仕事のことも今は忘れろ」 「は……? あんた……正気か? 仕事は俺にとっては、めちゃくちゃ大事なものなんだ。それを忘れろって……忘れられるワケないだろ!」  ついカッとなって佑月は怒鳴っていた。  明日も依頼は入ってる。それなのに須藤は何も答えず、玄関のドアを開けて出ていこうとする。 「ちょっと待ってください! 頼むからここから──」  須藤について佑月も出ていこうとするが、力強く身体を押され、よろめいた瞬間、目の前でドアが閉まってしまった。 「冗談じゃない!」  直ぐにドアを開け、須藤を追いかけるが、一つしかない専用エレベーターのドアは、閉まる寸前。慌ててドアへ駆け寄るも、またしても目の前で閉まってしまう。 「クソ!」  エレベーターが下に着いたのを見て、ボタンを押すが……。 「やられた」  下で施錠したのだろう。うんともすんとも反応しないボタン。  佑月は周囲を素早く見渡し、廊下のどんつきに非常階段のドアを見つけた。ノブを捻ってみたが、やはり施錠されていた。 「マジかよ……外へ出ることは許さないって……これじゃ、出られないだろ」  項垂れるように、佑月は玄関先で踞った。  どうすればいいのか。鞄ごと奪われてしまったため、スマホもない。連絡手段もないってことだ。 「なんでこんなことに……」  絶望の淵に沈んでいく。   ──俺は二人を見殺しにしてしまったんだ……。  あれから三日。  その三日間もどうにかして出られないか、佑月は策を練ったり、タイミングを見計らって脱走を試みるも、全て失敗に終わっている。  そして、この部屋の主の姿は一度も見ていない。一応帰ってきてるらしい。それも佑月が睡魔に負けて、落ちてしまった深夜の時間帯に。  その間、佑月の世話役として、滝川と名乗った須藤の部下が、食事など生活に必要な物を運んできてくれている。だが佑月は、食事もせず、風呂にも入らず、脱け殻のようにボーッと息をしてるだけだった。 「成海さん……お願いですから、どうか食事だけでも採って下さい。このままだと本当に倒れてしまいます」  須藤よりもがたいの大きな滝川が、弱りに弱った声音で佑月に懇願している。  だが滝川には悪いが、とても食事が喉を通る気がしないのだ。二人がどうなったのかも分からないのに。 「……滝川さん」 「はい」  ここへ来て初めて佑月から話しかけられたことに、滝川は少し驚いた表情を見せた。 「俺はいつまでここに居なきゃならないんですか? こんなところに居るわけにはいかないのに……」  大人しくされるがままの情けない自分。今さらここを出たって何も出来やしないのに、口から出るのは虚勢にも似た言葉。リビングの大きなソファで踞る佑月に、滝川はそっと傍に寄ってきた。 「ご安心ください」 「え……?」  佑月の前で片膝を突いた滝川は、宥めるように目を細めた。

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