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Confinement 10

「ご心配お掛けしてすみませんでした」 「いえ。須藤様もひどく心配なさってたので、喜ばれると思います」 「はい……」 「では、私は一旦戻ります」 「あ、あの」  食べた食器を片付けようとしたが、帰ろうとする滝川を見て、佑月は慌てて呼び止めた。 「はい」 「その……須藤さんは大丈夫なんですか? 昨日は帰って来なかったみたいですし」 「それは……っと、すみません、失礼します」  不意に滝川のスマホが鳴ったため、佑月は「どうぞ」と頷いた。だが深刻そうに眉を寄せる滝川に、佑月は心配になる。そして通話を終えた滝川は、佑月に頭を下げた。 「成海さんすみません。店で少しトラブルがあったようなので、直ぐに出なくてはならなくなりました」 「それは大変です。すみませんお引き留めして」 「いえ、こちらこそ申し訳ございません。須藤様のこともご心配なさらずに」  滝川は佑月に安心を与えるように柔らかく笑んでから、急いで帰って行った。一人になった広い部屋に、佑月の安心した大きなため息がこぼれる。 「……良かった。今日は帰って来るのかな」  直接本人に会って、ゆっくりと話を聞きたい。佑月は夜まで暇を潰すように、汚れてもいない部屋を再び掃除をした。  夜もどっぷりと更け、眠気覚ましにコーヒーを飲んでいたが、連日の睡眠不足がたたり、リビングのソファで船をこいでは目覚めたりと、悪戦苦闘していた。だがついには堪えられなくなって眠ってしまったのか、不意に身体に感じた違和感に、佑月はハッと目を覚ました。 「悪い。起こしたな」 「あ……」  佑月を横抱きにして、リビングを出ようとしたところだった須藤と間近で目が合う。 「お、お帰りなさい……」  返事の代わりに口の端を僅かに上げた須藤を見て、心臓の音が大きくなる。 「あの、まだ寝るつもりはないので下ろして下さい」 「今何時だと思ってる。ちゃんと寝ろ。目の下のクマが酷い」 「話があるから待ってたんです」  腕の中でモゾモゾと動く佑月に、須藤は仕方なさそうに佑月を下ろした。そして佑月の頭を一撫でして、ソファに座るよう促してきた。佑月は頷いてさっきと同じ場所に座る。 「飲むか?」 「ううん。いい」 「そうか」  棚からボトルとグラスを出した須藤は、佑月の隣へと腰を下ろした。帰って来たばかりなのだろう、スーツの上着だけを脱いで、ネクタイを弛めただけの格好。相変わらず甘い香りをさせている須藤だが、疲れているのが目に見える。 「須藤さん……みんなの事ありがとうございます」  佑月は一番伝えたかった言葉を伝える。頭を下げると、須藤の手が佑月の顎を掬い上げてきた。そしてその手は佑月の頬を包む。須藤の目は〝当然だ〟とでも言うように細められていく。その目を見つめ返しながらも、佑月の胸は痛みで疼いた。

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