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Confinement 17
「は、はい……どうかなさいましたか?」
滝川の目が不自然に泳いでる。
「あの、俺も外に出たいんですが、そろそろ一緒に出ても大丈夫でしょうか?」
佑月は懇願の目を向けてみたが、滝川はまた顔を赤くさせ、目を合わせてはくれない。
「申し訳ありません……。須藤様の許可をまだ頂いておりませんので」
「そうですか……。分かりました。お引き止めしてすみません……」
「い、いえ……では、私は失礼します」
さっきと同じセリフを吐いて、滝川は今度こそ帰って行った。さすがに五日も籠ってるとなると、身体も頭もおかしくなりそうだ。
まだ危険な状態なのだろうか。昨日は須藤から話を訊くつもりだったのだが、つい自分から誘う真似をしてしまったせいで、訊けずにいた。
「自分が悪いんだよな。アホか、俺は。いや、でもあんな須藤さん初めてだったしな……」
再びぶつぶつと言いながら、佑月は今度こそ洗面所に向かった。ホテル並の広くて綺麗な洗面台で顔を洗って、バスケットのトレーに置いてあるタオルで顔を拭く。そして鏡を見た瞬間、佑月は固まってしまった。
「……なに……これ」
首筋から開いた胸元にかけての赤い斑点。
「あの男……」
わなわなと震える身体。滝川が赤くなっていたのは、これを見たからだ。 寝間着の裾を上げると、上半身にもたくさんの痕。でも、見えないところは別にいい。それに須藤はいつも痕をつけたがるから、上半身や内腿は当たり前のように毎回ついている。だけど、首など見える場所には、今まで一度も痕をつけたことがないのに、これでは外に出られない。
「まさか……それが目的……。どちらにせよ、何とかならないか?」
キスマークと言っても、皮下出血だ。謂わば内出血と言われるもの。だから、血流を良くしたらいいはずと、佑月は急いで蒸しタオルを用意し、首筋に当てて痕をマッサージした。そして暫くしたのち、心なしか薄くなった気がした。塗り薬があればもっと完璧だけど、一日で完治はムリだろう。と、佑月の一日はため息ばかり吐いて、ほぼ腐っていた。
早く【J.O.A.T】のメンバーに会いたかった。そして仕事がしたい。今度こそちゃんと須藤と話して、ここから出して貰おうと佑月は決心した。だが、深夜二時を回っても須藤は帰って来ない。ある意味、須藤の体力は化け物並みだ。昨夜も、ほぼ寝ていないはず。下手したら一睡もしていないかもしれない。
だったら帰って来た時に話をするのは酷だ。やっぱり話は朝にしようと、佑月は早めに床に就くことにした。そして佑月は寝心地のいいベッドの上で、直ぐに意識を手離した。
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