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Decision 2

 陸斗らもそれに倣って頭を下げているが、顔には疑問符が浮かんでいる。何でここに居るんだと。 「実は、暫く身辺警護をしてもらうことになって……」 「まさか、ボディーガードってやつですか!?」  爛々と目を輝かせて言う花に、佑月は苦笑を交えて頷いた。本当は大袈裟だし、付けて欲しくなかった。今までみたいに遠くからの方がまだ良かったから。でも、今の佑月は文句を言えない立場。なら、せめて身近で守ってくれる人は、知っている人が良かった。真山は須藤の秘書兼護衛だから、ついてもらうのは無理だったため、滝川にしてもらったのだ。  最近よく世話になっているのもあり、まだ気が楽だったのだ。キスマークを見られはしたが……。だが、初めはかなり須藤に反対された。自分の事は棚に上げて、須藤はキスマークを見られたことがよっぽどお気に召さなかったのか、ずっと文句を言っていた。でもそれはあんたが悪いってことを、佑月がさんざんと言ったため、渋々と須藤は認めたのだ。例のキスマークは、ワイシャツの襟で何とか隠れる場所でセーフだった。 「滝川さん、そちらにお掛けになって下さい」  一つ余ってる事務机に座ってもらおうと促すが、滝川は首を振った。 「いえ、成海さん、私のことはお気になさらずに」  きっちりと仕事をする姿勢は流石だとは思うが、ずっと立っているつもりなのか。 「えっと……出来れば座って頂けると嬉しいんですが……。依頼のお客様が来られた時、驚かれると思いますし。すみません……」 「あ……そうでしたね。申し訳ございません。失礼します」  納得してくれたようで、滝川は恐縮したように事務机に座った。 みんなも初めこそは滝川の見た目に一歩引いた感じではあったが、丁寧な態度を崩さない滝川に、場の空気も少し和んだ。 「陸斗、海斗、花ちゃん」  この事務所の机配置は、日本特有の島型オフィスと呼ばれる形になっている。 皆は向かい合う配置で、佑月は全員を見渡せるような偉そうな場所。佑月が椅子に腰を下ろす前に、みんなに声を掛けると、三人は腰を上げた。そのせいで滝川までもが腰を上げてしまう。 「はい」 「一週間も事務所をみんなに任す形になって、心配も掛けたしで改めて申し訳なかったです。本日からまた挽回目指して頑張りますので宜しくお願いします」 「先輩……」 「成海さん」  三人は一瞬、神妙な面持ちでいたが、直ぐに笑顔で「もちろんです! こちらこそ宜しくお願いします」と声を揃えた。 「成海さんの代理で来てくださった方二人いたんですが、さすが須藤さんの部下でしたよ! 仕事が早い!」 「そっか、二人も割いてくれてたんだね……」  チラリと佑月が滝川を見遣ると、彼は柔和に頷いた。直接会ってお礼を言いたかったが、「その必要はない」と須藤に言われたのだ。それが佑月には悔やまれる。  今日は午後から、海斗と花が一緒に行く依頼が一件入ってるだけで、後は待ちだそう。佑月はみんなのお茶を入れるべく、給湯室でお茶の用意をする。用意をしながらも、佑月には気になって仕方ない事があった。一体みんなはどこまで知っているのだろうかと。

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