211 / 444

Decision 4

 みんなの居る部屋では話す事が出来ないため、佑月は町村を更衣室に充てている部屋へと案内した。陸斗らが心配そうに見守る中、佑月と滝川と町村の三人が更衣室へと入る。 「どうぞ」  壁に立て掛けてあったパイプ椅子を、町村と滝川に用意してから、佑月も椅子に腰を下ろした。 「失礼します」  滝川は一見静かに腰を下ろしているが、町村に少しでも不審な動きがあれば、容赦なく始末してしまうであろう、空気をずっと醸し出している。それに怯えを見せない町村は、さすが黒衿会の構成員と言ったところか。 その町村は椅子に腰を掛ける前に、突然佑月へと頭を深く下げてきた。 「すんませんでした!」 「え……?」  驚く佑月と滝川。 「今回のことは本当にすまなかったと思ってるんだ。堅気であるアンタが、あんな仕打ちを受ける羽目になるなんて、思ってもみなかったんだ……」 「それはどういうこと?」  佑月は気持ち前のめりになって町村に問う。 「まさか、(かしら)の私情でアンタを呼び出してただなんて、知らなかったってことだよ。オレらは私情で組織を動かすことはしちゃならねぇ。御法度なんだよ」  だいたい何処の組織もそうだろう。だが、色んな人間が集まる組織だ。私情で動く人間が出てきても、さして珍しいことでもないようにも思える。しかし黒衿会は、仁義を重きに置いていた組織ではなかったように佑月は記憶していた。とは言っても、実情までもが佑月に分かるわけがないのだか。ただその構成員が、堅気に頭を下げることには正直驚くものがあった。 「それで、本人が頭を下げに来るんじゃなくて、下の者に来させるなんて、随分な上司ですね」 「いや……これは、オレ個人で来てる」 (……個人?)  もしかして、村山という男は部下の信頼というものを得られていないのでは。何故なら普通、頭を差し置いて部下が被害者に頭を下げるなど、上司にとってはとんだ侮辱ものだ。 (まぁ、俺の知ったこっちゃないけど) 「それで、結局は今はどういう状況なんですか?」 「どういう状況って……。アンタ須藤の女だろ? 知らない──」 「おい、口を慎め」  滝川の唸り声に、町村は佑月を一瞥して、少し申し訳なさそうな顔を見せた。 「成海さん、今回の事に関しては……」 「俺には知る必要がないってことですか? でも、俺は当事者なんです。知る権利くらいはあると思います」 「ですが……」  滝川には申し訳ないと思いつつ、佑月にとってはここは絶対に譲れないことだった。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!