212 / 444

Decision 5

「町村さん、話して下さい」  話すまでは帰さないぞ。そんな強い意思を込め、佑月は町村を真っ直ぐに見据えた。 「わ、分かった……」  そんな佑月に気圧されたように、町村は口を開いた。  須藤は佑月をマンションに閉じ込めた後、直ぐに黒衿会の会長の元へ訪ねたようだ。滝川(いわ)く、須藤は車内で佑月の鞄の中や、スマホの中身を直ぐに探ったようだ。そしてあの録音と、町村が依頼に来たときに、事務所の住所を記した紙切れを手帳に挟んでいたのを見つけたらしい。  村山より先に会長に会いに行ったのは、やはり大きな組織のNo.2の地位にいる村山だけに、先ず筋を通さなくてはならないからだそうだ。本当なら、そんな手順さえももどかしくて、直接村山へと乗り込みたかったようだ。だがそれをすれば上層部の怒りを買う。自分らのみにそれが降りかかるなら問題はないが、必ず佑月も巻き込まれる。それを避けるために仕方なく、須藤は面倒な手順を踏んでくれたよう。 「普通その日に会長と面会なんて出来ない。でも、ウチの親爺は須藤……さんには借りが結構あるのもあったし、何よりウチの親元である原口組のおやっさんが、須藤さんを滅法可愛がってるのは有名だから、親爺も会わないワケにはいかなかったんだよ」 (可愛がってるって……あの原口組の組長が……?)  須藤が極道の人間に畏れられているのは、これが大きな要因でもありそうだ。 「それで?」  余計な考えを持つ前に、佑月は先を促した。 「それで、アンタが録ってた録画に俺の名前が入ってたことで、会長に呼び出された。もちろん会長に嘘なんか吐けないし、オレは直ぐに認めたよ」 「直ぐに? いくら会長の前だとはいえ、村山という男はあんたの直属の上司だろ? 少しは庇おうとはしなかったのか?」  さっきから感じてる疑問を含めて佑月が訊くと、町村は嘲笑するような笑いをもらした。 「庇う? 少なくともそんな風に思ってる奴は、ほんの数人しかいない。頭だけで伸し上がった若頭なんて、内心では認めてない者が大半だってことだ」 (おいおい……訊いたのは俺だけど、そんな簡単に内部事情をぶちまけるなんて、どういうつもりなんだ?)  それは、今の黒衿会はぐだぐだってことを明かしているようなものだった。そしてやっぱりとでも言うのか、村山は組員の信頼を得られていなかった。それなのに今回のこの件で、更に村山の立場は悪くなったであろうことは、容易に察しがつく。 「その村山は今どうしてるんだ?」 「頭は今入院してる」 「え……入院って……」  何か嫌な予感に、佑月は隣に座る滝川に視線をやった。目が合うと、滝川は溜め込んでいた空気を吐き出すように軽く息を吐いてから、緩く首を振る。 「成海さん……これ以上は本当に勘弁してください」  やはり滝川からは答えはもらえない。それならば、町村に訊くしかない。 「町村さん、村山の所へ連れてってほしい」  佑月の言葉を予想だにしていなかった二人は、同じように驚いた顔を見せた。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!