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Decision 7
忙しくて直ぐに出られないだろうと思っていたが、意外に早くコール音が切れた。
『どうした、佑月』
その声は少し心配が混じった声音。佑月から掛けることはほぼ無いし、最近掛けたのも、あの別離の電話だったため、警戒も混じっているのかもしれない。
「須藤さん……すみません。今からちょっと村山に会いに行ってきます」
『何? 村山にだと? 駄目だ。なに考えてる。行ったら許さないぞ』
(うわぁ……恐ろしいほどの重低音)
須藤の怒りが、嫌と言うほど伝わってくる。だが佑月は負けるつもりはなかった。
「須藤さん、俺の性格知ってるなら分かるでしょ? 俺の中での決着がまだついてないんだ。だから止めたってムダです」
『お前のことは良く分かってる。だが、行くことは許さない。直ぐに戻るんだ』
もう、戻れない。いま佑月は病院の玄関前だ。
「本当にすみません! 帰ったら説教はいくらでも聞くから!」
『おい、佑──』
怒鳴る須藤の声が聞こえるが、佑月は直ぐに通話を切って電源を落とした。かなりの怒りようだから、今夜はもしかしたら半殺しの目に遭うかもと、佑月は覚悟した。
そして直ぐに滝川のスマホが鳴る。きっと須藤からだ。本当は出ないで欲しいが、滝川の上司は須藤だ。出ないワケにはいかない。若干青い顔の滝川に、佑月は更に申し訳なく思うが、心の中でエールを送るしかない。
「は、はい滝川です。はい、はい……申し訳ございません。はい、もちろんです」
固唾を飲んで見守っていると、不意に町村が佑月の傍へと身を寄せてきた。
「アンタ……本当に大丈夫なのか?」
「ええ、色々と覚悟は出来てるから、ご心配無用です」
少し近すぎる町村から離れようとした時。
「貴様、成海さんから離れろ」
「いってぇな! ちょっと話してただけだろ」
引っ剥がすように、滝川が町村の腕を掴んで引き離す。もしかしてまだ通話中かと思ったが、意外にも早く話がついたのか、終わってるようで佑月は安心した。こんな会話を聞かれたら、余計怒りを買ってしまうところだった。
二人が敵意を剥き出しに中へと入って行くのを、佑月はその後ろからついて行った。
「ここだ」
町村が指すのは、明らかに一般病室とは造りの違う部屋の扉。見張りが立っているのかと思いきや、誰もいなくて佑月はホッとした。部屋のネームプレートには何も書かれてない。
「いいな?」
町村は訊ね、佑月が頷くと部屋の扉をノックした。
「頭、失礼します」
一人部屋には十分過ぎるほどの広い一室に、その男はベッドに寝ていた。眼鏡を外しているが、佑月の姿を見るや、一瞬で険しい顔になる。
「町村、どういうつもりだ」
少し辛そうに顔を歪めながらも、僅かに上体を起こそうした。だが痛みが酷いのだろう。村山は諦めてベッドに身体を預ける。しかしその声だけは、一般人を脅し付けるには十分すぎる程の迫力があった。
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