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Decision 8

「話があるらしいので連れてきました」 「話だと? 今更何の話だ。俺の滑稽な姿でも見に来て、笑いにでも来たのだろう?」  眼光だけが生気を取り戻したかのように、鋭く光る。事前に町村から聞いてなかったら、佑月は今、村山を直視出来なかっただろう。頭は十針以上も縫った大怪我。そして村山の利き手である右腕は……。  上腕の真ん中くらいから包帯がぐるぐるに巻かれているが、その包帯の部分から下に繋がっているはずの部位がない。つまり腕がないのだ。それらの負傷を負わせたのは……須藤。  右腕に関しては直接須藤が手を下したワケではないが、落とし前として指ではなく、腕を落とさせたのだ。余りにも惨すぎて、佑月も聞いた時はさすがに須藤が怖くなった。いくらなんでも腕まで落とすなんて、正気とは思えなかった。だけど、この村山という男は須藤の強要にも反抗することなく、あっさりと実行したらしい。そう、自ら日本刀でだ。 「どうした? 顔色が悪いな。さすがに怖じ気付いたんじゃないのか? なら、さっさと帰るんだな」 「訊きたいことを訊けば、直ぐに帰りますよ」  須藤が来てしまうかもしれないのもあるが、こんなところに佑月も長居などしたくなかった。村山も佑月の顔を見ていたくないのだろう。忌々しそうに舌打ちを鳴らした。 「アンタは何で今回こんな真似をしたんですか?」 「何を今更。お前は頭が悪いのか?」  心底に馬鹿にしたような目。町村と滝川からも、何で今更そんなことをという疑問が浮かんでいる空気。普通はそう思うだろう。あんな目に遭っておきながら、あの暴行の理由は何だったんですか? とわざわざ訊いてるようなものだからだ。 「頭が悪いのは否定しませんが、でも何でこんな中途半端な真似をしたのか、少し疑問に思ったので」 「あれでは手緩いとでも言いたげだな」 「手緩い……そうとも言えるかもしれない」  少し間ができる。そして、村山は眉間に深いシワを寄せて、町村へと視線をやった。 「おい、こいつは本当に頭が可笑しくなったんじゃないのか?」  そう村山に訊ねられる町村は、何とも複雑な表情で佑月を見ていた。別にこいつらに何と思われようが、佑月は一向に構わなかった。 「聞けばアンタは頭脳で若頭の地位に就いたとか。そんな頭脳派にしては、やけにずさんな行為だったなと思いまして」 「何が言いたい」 「もしかして“何か”に邪魔でもされてたんですか?」 「……」  佑月の言っていることは、ただの憶測でしかない。ただ、須藤が言っていた浅薄な考えと言うのが、ずっと引っ掛かっていた。その問いに答えるように、村山の目にスッと色が消えていくのを、佑月は見逃さなかった。

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