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Decision 9
「例えばじっくりと計画を練る間もなく、ほぼ衝動的だったとか。そんな中で、アンタの中で葛藤があったんじゃないんですか? それに全て乗っかるには、己のプライドが許さない部分があったりして」
「……」
佑月は探るようにじっとその目を見据える。すると僅かだが、村山に動揺の色が見られた。恐らく村山は、追及される立場に置かれる事が、ほぼ無いような人間だと思われる。だから、よく見ていないと見落としてしまうが、須藤のような人間であれば、それは直ぐに見抜かれてしまうだろう。
そしてやはり何かがあったようだ。もしかしたら、自分の意図せずところで、何かきっかけのようなものがあったのかもしれない。普段ならもっと冷静に、物を考えていそうな人間なのに。佑月に何かをするにしても、もっとダメージを与えられる方法があっただろうに。そんな村山が、冷静でいられなくなるような状況があった。そうだとしか考えられない。
その原因となるものが、一体何なのかまでは分からない。だが、どうしても頭脳派と言われるこの男のやり方にしては、須藤の言う通り浅はかに思えて、佑月の中で違和感が生まれたのだ。こんな些細なことを知ってどうするのだという話だが、佑月の本能的な部分とでも言うのか、それを確認せずにはいられなかったのだ。
もし、きっかけとなるものが〝人〟だったら……。そうだとしたら、とてつもなく嫌な感じがする。
「言いたいことはそれだけか? お前の妄想とやらは実に下らんな」
「妄想……ですか。まぁ、そういう事にしておきます」
村山の目元がピクリと引きつる。
「何から何まで不愉快な男だ。用がそれだけなら、さっさと消えろ」
苛つきがピークなのが声音で伝わる。滝川も早く帰るよう佑月を促すが、佑月は最後に村山へと口を開いた。
「アンタには一つだけ言っておきたい。アンタも男なら、こんな姑息な真似をせず、正々堂々と正面から来い。それが〝漢 〟ってもんだろ」
それだけを言い置いて、佑月は滝川と共に病室から出た。すると直ぐに部屋から村山の笑う声が聴こえた。あの男が声を出して笑うなんて、少し驚くものがあるが。
「……貴方をカタギにしておくのは、もったいないな」
「え?」
隣でボソリと呟かれる言葉。小さすぎて佑月の耳には届かなかった。
「いえ、何でもないです。こんなことを言ったら須藤様に殺されるな」
「……?」
首を傾げてると、 廊下の先から黒ずくめの男三人が、歩いてくるのが佑月の目に入った。
「タイミング悪いですね……」
「どうかしました?」
「黒衿会の会長です」
佑月にだけ聞こえるように、滝川が教えてくれる。
(あれが……会長。確か名前は渡辺だったか)
歳は六十代後半から七十代といったところ。纏う空気はさすがに落ち着いていて、どっしりとした空気だ。村山の病室へ行くのだろう、もうすぐすれ違うといった時に「ちょっと待て」と佑月は呼び止められた。
張りがあり、よく通る声。滝川が佑月を庇うように立つ。佑月がそっと渡辺へと視線を向けると、渡辺は佑月だけに視線を据えていた。
「お前が成海佑月か」
それは確信めいた問い。さすがに相手が大組織のボスともなると、佑月の緊張感は半端ないものがあった。
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