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Decision 10
「はい。そうです」
「ほぅ……なるほどな。これは、滅多にお目にかからねぇほどの別嬪 だ。須藤が入れ込むのも分かる」
台詞とは裏腹に、不躾に嫌な視線では見てこない。どちらかと言うと、須藤の〝オンナ〟としての佑月に興味があるように見える。
「だが、お前もとんだ人間に入れ込まれたもんだな」
「どういう意味ですか……?」
滝川が、グッと佑月の横で堪えてるのが分かる。相手が相手だけに、下手なことは出来ないから。
「あの男は、懐 に入れたモノには甘いが、そうでないモノには無情の鬼となる。今回はちゃんと筋を通してきたが、本当なら村山と、その関わった人間は、全て消してしまいたかったに違いないからな。あの男は元々、部下と言えど、人というものを信用していない。虫ケラも同然だと思ってるような男だからな」
僅かな動揺も見逃さないかのように、真っ直ぐと佑月を見据える渡辺。見つめ合いたくないと思う佑月だが、今は目を逸らさない方がいいと判断する。
「お言葉ですが、貴方の目にはその様に映ってるのかもしれませんが、彼は多くの部下の方を信用しています。だから頼ってもいます。そして、そんな須藤さんだからこそ、こちらにいらっしゃる滝川さんらも付いていくんです。まだ俺は出会ってほんの数ヶ月だけど、あの人のそういう面を少しずつこの目で見てきました。だから俺は、今は須藤さんという一人の人間を、とても信用してます」
「成海さん……」
他人の口から須藤や、周りの人間を悪く言われると、無性に腹が立つ。それ故に、相手が黒衿会の会長だということも忘れ、佑月は思うままに言い放った。
「ふ……はははは」
突如と通路に響く笑い声。佑月と滝川が、驚きで唖然と声の主を見つめる。付き添いの二人の構成員も「会長……?」と驚きと戸惑いを見せている。きっと普段から笑う男ではないのだろう。
「いや、失礼。今回のことは内の者が迷惑をかけて、すまなかったと思ってる。この通りだ」
そう言って頭を下げる黒衿会、会長。構成員二人は信じられないものを見たかのように、驚愕の表情で固まっている。
「い、いえ……」
佑月も何て答えればいいのか分からず、それ以上の言葉が続かなかった。まさか会長が頭を下げるなんて、誰も思わない。さっきまでの威勢は何処へいってしまったのか、佑月は気後れしたかのように大人しくなる情けなさ。
「時間を取らせてすまなかったな」
そんな佑月を気にした風もなく、渡辺は部下と共に、さっさと村山の病室へと向かって行った。
「驚きました。まさか、あの会長が頭を下げるなんて……」
「ですよね……」
滝川と佑月は二人暫く呆然とする。
「あの人こそ、昔は鬼の化身とまで言われ、容赦のない人間で畏れられていましたから。随分と丸くなったのか、それとも……」
と、ここで佑月を見る滝川。
「ど、どうしたんですか? 俺何かマズイことでもやらかしましたか?」
(いや……確実にやらかしただろ俺。偉そうな事言ったし……)
青くなる佑月の横で、少し笑う気配がして隣を見上げると、滝川のその目は直ぐに真摯なものになった。
「いえ、それはご心配には及びません。それよりも先程、須藤様を信じてるって仰って下さり、本当にありがとうございました」
「いえ、それは……って顔上げて下さい」
今日の佑月は色んな人に頭を下げられる日だ。
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