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Decision 11
「あれは俺の本心なので、お礼を言われる程のことじゃないですよ?」
「いえ、それでも私はとても嬉しかったので」
(あぁ、やっぱりな……)
まるで自分の事のように喜ぶ滝川の姿は、嘘偽りなく、須藤という人間を慕っているからこそ出る気持ちだ。独裁的な力で従えていないという証拠。それを実感すると、やはり佑月も嬉しかった。
病院の正面玄関を出ると、佑月は病院を仰ぎ見た。 これで一応落着した事になるのか。正直、消化不良な事もあるが、もう佑月にはどうする事も出来ない。後は何も起きない事を、ただ祈ることしか佑月には出来ないのだ。
「村山は破門されます」
「え……」
破門は、ほぼ絶縁に近い処分だ。 復縁の余地はあるにしても、それもよっぽどの事がない限りだろう。
「会長が現れたのは、そのためです」
「……随分と重い処分ですね」
「ええ、本当は内々に対処したかったでしょうが、事を構えた相手が須藤様だったので、そういうワケにはいかなかったようですね」
「そうですか……」
あの歳でヤクザ世界から見放された人間は、どうやって生きていくのだろう。悪行には手を染めず、真っ当な人生を歩んで欲しいものだと佑月は密かに思った。
佑月が病院の敷地内から出た時、見慣れた黒塗りの高級車が目に入った。
「うわ……」
佑月の身体に、嫌な汗が一気に流れ落ちていく。運転席から、神経質そうな顔は相変わらずの真山が降りてきた。
「逃げてもいいですか?」
佑月は思わずボソリと滝川に洩らすが「駄目ですよ」と即答されてしまう。
(そりゃないよ、滝川さん……)
「お迎えに上がりました。成海さん」
後部座席を佑月のために開けてくれる真山からも、有無を言わせない空気が流れてきていた。滝川は佑月の存在を忘れたかのように、さっさと助手席に乗り込んでしまう。
「どうぞ」
真山は柔和な笑みを佑月に向けて、再度促してくる。
(……怖い)
「……は、はい」
引きつる笑みで真山に答えて、佑月は乗り込む前にソッと中を覗き込んだ。
「……」
(あれ? いない……)
どうりで滝川が主に挨拶無しに乗り込んだワケだ。ホッとはしたものの、どうせ夜には説教を食らうのは避けられない。佑月は項垂れるように車に乗り込み、事務所まで送ってもらった。
「では佑月先輩、一週間ぶりの仕事お疲れ様でした!」
「う、うん、お疲れ様。気を付けてね」
「はぁい! 先輩も」
元気な声を上げて三人は颯爽と帰って行く。本当は帰らないでくれと言いたい。自分でやったことなのに往生際が悪すぎるが、気分は落ち込んでいく。
滝川は三十分程前に帰って行った。いつもは事務所の中まで入って来て、佑月を迎えに来る須藤だが、今日は来てない。
一瞬仕事が忙しくて、来れないのかと佑月は喜んだが、窓の外を見れば、闇と同化したマイバッハが止まっているのが見えてしまった。
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