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Decision 12
佑月は重いため息を吐いて、車へと向かいビルから出ると、真山が直ぐに車から降りてきた。
「成海さん、お疲れ様です」
「お疲れ様です。今日は度々すみません。ありがとうございます」
「いえ……」
真山は少し困ったような笑みを目元につくる。それだけで今の状況が嫌でも分かった。
ゆっくりと後部座席のドアを開けて、真山は佑月に頭を下げる。佑月は気持ちを入れ替えるように、軽く息を吐き出し、車に乗り込んだ。
乗り込んだ瞬間の重い空気。長い足を組み、肘掛けに肘を突いて、佑月が乗り込む時からじっと見ているのを肌で感じる。既に運転席とは遮断された密閉空間。ピリピリと肌を刺す空気は、殺気でないことを佑月は祈った。
「……お疲れ様です」
返事なし。顔を見る勇気がないから、須藤が今どんな表情 をしているのかは分からない。だが視線だけはチクチクと佑月に突き刺さる。
「勝手したことは謝ります。でも、俺だけ蚊帳の外は我慢ならなかったし、ちゃんと俺の中での決着もつけたかったんです」
「それで? ついたのか」
やっと口を開いたその声は、感情を抑えた冷たい声。
「はい……」
何か見えないものが燻ってる気がするが、今回の件については一応決着はついたと言える。
「滝川から全て聞いた。村山に啖呵を切ったそうだな」
「……いや、別に啖呵って程でも……」
やや俯き加減で答える佑月に、須藤の手が伸びてきた。そして佑月の顎を掴んで、顔を自らの方へと向かせてきた。
ここで初めて佑月は須藤の顔を見た。目の奥はまだ完全に怒っている。だけどそれはただの怒りではなく、心底心配しての怒りだった。それにはやはり、反省の気持ちが佑月にも湧いてくる。
「よりによって渡辺と接触もしたようだしな……」
「……」
忌々しそうに言いながら、佑月から指を離していく。不可抗力だったとはいえ、何も言い返せない。
「佑月」
「はい……」
「この際だからはっきり言っておく。お前はこっちの世界には踏み込むな」
冷たく突き放す言い方に、佑月の胸がズキリと痛んだと同時に、頭にきた。
「踏み込むなって、今更なこと言うなよ。あんたの傍にいるならそれは避けようもないことだろ! それともなにか? もう俺には用はないってことかよ。だったら回りくどい言い方しないで、ストレートに言えよ!」
「そうじゃない!」
珍しく声を荒らげる須藤に、佑月の身体は僅かに跳ねる。
「確かにお前の言う通り、俺の傍にいれば否応なしに裏が絡んでくる。それも、俺自身が巻き込んだ事だ。だが俺は、極力お前には普通の世界での生活をさせてやりたい。汚れた世界にお前を関わらせたくないんだ。分かってくれ」
最後は消え入りそうな声。佑月に懇願する姿。こんな須藤を見るのは初めてだった。
「須藤さん……」
(俺は今までこの人の何を見てたんだろう……)
大事にされていることは分かっていたが、まさか須藤がここまで考えてくれていたとは。少し分かった気でいて、黒衿会の会長に偉そうな事を言った佑月だったが、自分自身が何も見れていなかった。そんな自分が佑月にとって恥ずかし過ぎた。
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