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Decision 13
「いいか、佑月。お前は俺だけを見てろ。俺という一人の男だけをな」
「須藤 仁……だけを……」
「そうだ。他所にまで目を向けるな。分かったな」
「っ……」
腕を引っ張られた瞬間、佑月は須藤の腕の中に閉じ込められる。傲慢とも言える須藤のセリフだが、今の佑月は心が満たされていった。
「もちろんこれからもあんた自身を、あんただけを見ていく。でももし、あんたに何かあったりしたら、俺はきっとそっちに踏み込んでしまう。だから悪いけど、これだけは約束出来ない……」
間近で見上げる須藤の顔。その目にはもう怒りはなく、優しげな色が浮かんでいた。
「お前は本当に、頑固で真っ直ぐな男だな。まぁ、そこがたまらないんだが」
佑月の唇に須藤は親指を滑らしていく。佑月の身体は期待に熱が籠っていく。
「お互い男として、譲れないものがあるということか……」
少し苦笑してから、須藤は顔を近付けてきた。そして佑月の唇をペロリと舐めてきたため、佑月は須藤を受け入れるために口を開いた。すると、直ぐにその舌は佑月の口内に入り、お互いの舌が深く絡み合った──。
「あの……俺は今日もアパートに帰れないんですか?」
「当たり前だろ。これからじっくりと説教をしてやらないとな」
「……」
須藤のマンション。佑月をベッドへと軽く押し倒した須藤は、流れる動作で自らのスーツの上着を脱ぎ捨て、ネクタイを外した。
「お前、黒衿会の若い奴に惚れられたそうじゃないか」
「……は? 若い奴って、まさか町村?」
「あぁ」
不機嫌そうに返事をしながら、佑月のスーツを手際よく脱がしていく。佑月は抵抗も忘れ、その頭の中は疑問符だらけだった。
(なんで町村?)
「何か誤解してるみたいだけど、町村は結婚してますよ?」
岩城をホテルに連れ込もうとした女 “エリカちゃん”が女房だとか、村山は言っていた。
「この頭はもう忘れたのか?」
佑月の頭をぐしゃりと撫でながら、須藤は心底に呆れた表情を見せてくる。
「何ですか」
それに佑月はムッと答える。
「お前を前にすると些末なことだろ。男は全てお前の甘い蜜に魅せられる害虫だ。もっと危機感を持てと、何度も言ってるだろうが。しっかり覚えておけ」
(害虫って……あんた)
「返事は?」
「……はい」
この場は素直に返事をしておいた。でも全ての男に警戒なんて実際はムリだぞ、と佑月は本当は言ってやりたかった。須藤は何かまだ言いたげな様子だが、それ以上に自分の身体が限界なのか、直ぐにエロモードのスイッチが入った。佑月を全裸に剥くと、必ず須藤は左側の乳首と煙草の痕を入念に愛撫をしてくれる。もう痛みもあまり無いし、佑月の中では終わったこと。それに須藤がそうやって優しく触れてくれるから、嫌な記憶は既にないのだが、須藤はそれを省くことをしない。
きっと須藤の中では、何も終わっていないのだろう。でも、優しいのはその時だけだ。後は欲しいままに佑月を求める。特に今日はお説教も混ざっているせいで、佑月がめちゃくちゃにされてしまったのは言うまでもない──。
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