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内輪で 4
あまりのショックに佑月が額を押さえていると、花が突然「違うんです!」と立ち上がる。須藤以外の視線が花に集まる。
「ごめんなさい成海さん。実は誘ったの私なんです」
「え? 花ちゃんが誘ったの?」
佑月は花に問いかけながら、須藤に視線をやった。そんな佑月の視線に、須藤は僅かに首を振る。どうやら、その事実はないと言いたいらしい。どういう事かと、佑月が花に視線を向けると、申し訳なさそうでありながら、どこかイタズラが成功した子供のように、満足そうな表情を見せてきた。
「実は、今日成海さんが出勤してきた時に、滝川さんにお願いしたんです」
「滝川さん……。いつの間に……」
最近では四六時中、佑月に付き添うことは無くなったが、須藤がいない時は滝川に送迎をしてもらってる。恐らくその時に声を掛けたのだろう。
「はい。お忙しいとは思ったんですけど、ダメ元で頼んでみて良かったぁ。須藤さん、ありがとうございます!」
花は満面の笑みを須藤に向ける。向けられた須藤は、なんとも複雑そうな顔。しかし、なるほど……花がそわそわしていたワケは、こういう事だったのかと、佑月の疑問は解消された。
「須藤さん、成海さんのお隣へどうぞ!」
「……」
さすがの須藤も、花の勢いに若干押され気味。そんな須藤に、佑月は一人愉快な気分になる。
(おもしろ……)
その中で、颯と岩城が明らかに緊張している。特に岩城は、須藤とはいい思い出がないだろうから。
「須藤さん、とりあえずこちらに座って下さい」
佑月は自分のデスクの椅子を転がして、須藤に座るよう促す。
「いや、もう戻る」
「え?」
サラッと帰る宣言をする須藤の腕を、佑月は慌てて掴んで「ちょっとこっち来て」と皆から少し距離を取り、耳打ちをする。
「忙しい中来てくれたのに、本当に悪いんだけど、少しだけ……ほんの五分でもいいから付き合って下さい」
言いながら花の方へと視線をやり、目でも訴える。その意味が分かったのか、須藤は軽くため息を吐く。
「何でこの俺が、お前以外の人間に気を使わなければならない」
「だからすみませんって。この借りは必ず返しますから」
「本当だな?」
「……はい」
佑月が返事をすると、須藤はじっと佑月の目を見つめてから、再び軽く息を吐くと、諦めたように佑月の椅子に腰をかけた。
本当は借りなど作りたくないが、ここで須藤が帰ってしまうと、花が気にしてしまう。須藤が座ったことで花は満面の笑み。双子は……微妙な顔。颯と岩城は背筋がピンと伸びて、緊張MAX。
(……すみません皆様、一杯だけの時間我慢してください)
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