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内輪で 5
それは何とも異様な光景だった。須藤は仕事帰りに、仕事仲間と楽しくどんちゃん騒ぎをするタイプではない。だからこういう場では、かなり浮いてる。
「あ~やっぱり、須藤さんと成海さんが二人並ぶと、素敵ですよね~! 目の保養になっちゃいます」
「……なに言ってんだか。お前もう酔ってるな」
海斗が呆れ顔。言われた佑月は一人で赤面する。陸斗は須藤を見ないように、颯と岩城の二人と話している。そして佑月は赤くなった顔を隠しながら、須藤のために甲斐甲斐しく肉を焼く。
「はい、どうぞ」
「いらない」
「いらないって……」
即答で断られ、佑月は少ししょんぼりとしてしまう。
「てか、ユヅこそ全然食ってねぇじゃん。ほら、これ食えよ」
「あ、ありがと。って、こんなにいっぱい!?」
残り少なくなっていた最後の肉を、颯は佑月の紙皿にどんどん入れてくる。
「だって毎回言ってるけどさ、ユヅ女みてぇに腰とか細いし、もうちょっと太れっ……っ」
と、急に黙り込む颯。見なくても分かる。佑月の左隣から、何とも言えない空気が流れてくるから。そして不意にその須藤が腰を上げた。
颯がサッと身構えるが、須藤はそれには一瞥もしないで佑月を顎で呼ぶ。
「えっと、すみません。須藤さんはこの後仕事に戻るそうです。慌ただしくてごめんね」
(って、俺はあんたの通訳か)
「え? もうですか? すみません……お忙しいとは分かってたんですけど、無理を言ったみたいで……」
肩を落とす花に、佑月が声を掛けようとした。
「いや、気にするな」
それよりも先に須藤が初めて花に答えた。それは効果絶大で、花は息を吹き返したように嬉しそうに頬を赤らめていた。双子や颯は信じられないものを見るように、驚いている。須藤が少しでも歩み寄ってくれたのが、佑月には嬉しかった。
須藤を見送るのに、佑月も一緒にビルの外まで出る。外にはマイバッハが止まっている。本当に直ぐに帰るつもりな程に忙しかったようだ。結局須藤は、一滴も酒を飲んでいない。
ここ最近、佑月は須藤の顔をまともに見る時間がなかったため、須藤がわざわざ時間を割いて来てくれたのは、本当に嬉しかった。だから花には感謝した。
(でも、なんだろう……。余計に寂しくなってる気がする)
真山は車から降りて、佑月に頭を下げると、後部座席を須藤のために開けた。佑月はその気持ちを押し込めるように、須藤へと笑顔を向けた。
「今日はわざわざありがとうございました。無理だけはしないで下さいね」
「あぁ。また今夜連絡する」
須藤は佑月の頬を片手で包みながら、耳にキスをするように、甘い美声を聴かせてきた。それだけで、佑月の顔は熱を持った。
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