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内輪で 6
暗くて見えないとは思うが、そんな佑月の顔をじっと見て、須藤は何か言いたそうだ。しかし時間がないのか、諦めたように須藤は直ぐに車に乗った。
「では成海さん、失礼します」
「はい。お気をつけて」
真山はフッと微笑を浮かべてから、車に乗り込んで直ぐに発進させて行った。
「お疲れ様……」
暫く見送ってから佑月は事務所に戻った。
「おぉ! ユヅお帰りぃ~! お前も早く飲め!」
「そうですよ! 兄貴全然飲んでないでしょ!」
たった数分で出来上がってる。須藤のいた時間が、よほど窮屈だったことが窺える。花からのサプライズだったとはいえ、妙な空気にさせて申し訳なかったと、佑月は皆に混じって盛り上がった。花にこっそりと佑月が礼を言うと、嬉しそうに屈託のない笑顔を見せた。
日付を跨いだ午前一時前。場はお開きとなり、後片付けも終わってみんなが帰った事務所内。
「そう言えば、滝川さんからの連絡がないな。いつもなら何時ごろに終わるか訊いてくるのに。このまま帰ってしまいたいところだけど、勝手したら須藤さん怒るしな……」
ぶつぶつと佑月が独り言を言っていると、手に持っていたスマホが震えた。画面には須藤の名前が出ている。
「あ……そう言えば、今夜掛けるとか言ってたっけ」
佑月は急に緊張し始める。たかが電話なのにだ。
「も、もしもし……お疲れ様です」
緊張し過ぎて少し裏返る自分の声に、佑月は赤面しそうになる。
(電話で良かった……)
『もう終わったんだろ? 今何処にいる』
「まだ事務所にいます」
『そうか。ちょうど良かった。後五分くらいで着くからそこで待ってろ』
「あ、はい……」
返事をする前に切られる。でも今日はもう会えないって思っていただけに、嬉しく思う佑月がいた。
そして五分も経たない内に、須藤から連絡が入り、佑月はビルから出た。が、思ってもみなかったお迎えに佑月は面食らう。そう、それは須藤の車だったからだ。だからもちろん須藤は運転席から降りてくる。
「あれ? 珍しいですね。お仕事は終わったんですか?」
「あぁ、早く終わらせた。とにかく早く乗れ」
「ちょ、痛いって……」
何か苛ついてるのか、はたまた何か余裕がないのか、須藤は佑月の手首を引っ張り、助手席へと押し込んだ。そして須藤も車に乗り込むと、一息つく間もなく直ぐに車を出す。
「そんなに急いで何処へ行くんです?」
「ん? 直ぐそこだ」
「直ぐそこ……」
相変わらずアバウトな返事をする須藤。怒ってるとか、そういう事ではなさそうだが、珍しく何か余裕がなさそうだった。
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