233 / 444

内輪で 6

 暗くて見えないとは思うが、そんな佑月の顔をじっと見て、須藤は何か言いたそうだ。しかし時間がないのか、諦めたように須藤は直ぐに車に乗った。 「では成海さん、失礼します」 「はい。お気をつけて」  真山はフッと微笑を浮かべてから、車に乗り込んで直ぐに発進させて行った。 「お疲れ様……」  暫く見送ってから佑月は事務所に戻った。 「おぉ! ユヅお帰りぃ~! お前も早く飲め!」 「そうですよ! 兄貴全然飲んでないでしょ!」  たった数分で出来上がってる。須藤のいた時間が、よほど窮屈だったことが窺える。花からのサプライズだったとはいえ、妙な空気にさせて申し訳なかったと、佑月は皆に混じって盛り上がった。花にこっそりと佑月が礼を言うと、嬉しそうに屈託のない笑顔を見せた。  日付を跨いだ午前一時前。場はお開きとなり、後片付けも終わってみんなが帰った事務所内。 「そう言えば、滝川さんからの連絡がないな。いつもなら何時ごろに終わるか訊いてくるのに。このまま帰ってしまいたいところだけど、勝手したら須藤さん怒るしな……」  ぶつぶつと佑月が独り言を言っていると、手に持っていたスマホが震えた。画面には須藤の名前が出ている。 「あ……そう言えば、今夜掛けるとか言ってたっけ」  佑月は急に緊張し始める。たかが電話なのにだ。 「も、もしもし……お疲れ様です」  緊張し過ぎて少し裏返る自分の声に、佑月は赤面しそうになる。 (電話で良かった……) 『もう終わったんだろ? 今何処にいる』 「まだ事務所にいます」 『そうか。ちょうど良かった。後五分くらいで着くからそこで待ってろ』 「あ、はい……」  返事をする前に切られる。でも今日はもう会えないって思っていただけに、嬉しく思う佑月がいた。  そして五分も経たない内に、須藤から連絡が入り、佑月はビルから出た。が、思ってもみなかったお迎えに佑月は面食らう。そう、それは須藤の車だったからだ。だからもちろん須藤は運転席から降りてくる。 「あれ? 珍しいですね。お仕事は終わったんですか?」 「あぁ、早く終わらせた。とにかく早く乗れ」 「ちょ、痛いって……」  何か苛ついてるのか、はたまた何か余裕がないのか、須藤は佑月の手首を引っ張り、助手席へと押し込んだ。そして須藤も車に乗り込むと、一息つく間もなく直ぐに車を出す。 「そんなに急いで何処へ行くんです?」 「ん? 直ぐそこだ」 「直ぐそこ……」  相変わらずアバウトな返事をする須藤。怒ってるとか、そういう事ではなさそうだが、珍しく何か余裕がなさそうだった。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!