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陸斗の災難

◇  平日の夕方。  ファミレスでコーヒーを飲む男二人。二人ともスーツ姿のため、周囲の者には営業マンの時間潰しに見えるかもしれない。この時間潰しの営業マン風男二人が、実は佑月と陸斗だ。かれこれ一時間はいる。 「そう言えば最近、そこらでガサ入れが多くなってるんですよ」 「そっか……。やっぱ黒衿会(あそこ)が関係してたりするのか?」  二人こそこそ話ながらも、意識は別の場所にある佑月たち。陸斗はコンデジで、音が出ないようこっそりとターゲットを撮る。 「はい。ウチは多分大丈夫だとは思うんですけど。今回はだから、Sさんももしかしたら危ないかも。まぁでも、あってもあの人は上手く切り抜けるでしょうね」 「……うん、多分ね……」  〝これ〟と言って、陸斗は人差し指と親指を、他の客から見えないように立てる。それは銃を象った形。Sさんと言うのは、もちろん須藤のことだ。  須藤の裏の仕事の事は、佑月も口を挟まないようにしている。そういう男だと知って好きになったのは自分だから。でも心配はしてしまう。命だって狙われ兼ねないし、警察にだっていつ捕まるか分からない。だからこういう話を聞くと、心穏やかではいられなくなる。 「あ……帰るようですよ」  陸斗の声でハッと我に返った佑月は、目的の人物へと視線をやった。  佑月たちが座る場所は、店内の一番奥まった場所。目的の人物は入り口付近に座っていて、距離としては離れている。だがレジは目の前といった場所なのに、何故かその人物はこちらへと歩みを進めてくる。レジに背を向けて座ってる陸斗は、慌てて佑月の方へと向き直った。 「こんにちは」  成長期らしい若々しい声。名門校の制服を身に付け、とても綺麗な顔をした少年。銀縁の眼鏡の奥の目を柔和に細め、爽やかな笑みを佑月らに見せてくる。間違いようもなく、佑月たちに声を掛けてきている。 「こんにちは」  平静を装い、佑月が挨拶を返すと、少年は邪気のない笑顔を見せながら、陸斗の隣へとスッと腰を下ろしてきた。その行動に佑月はもちろん、隣に座られた陸斗は更に驚いて困惑している。見た目に反して、少年は意外と積極的のようだ。そんな佑月らにお構い無く、少年はじっと佑月を真っ直ぐに見てくる。 「お兄さん、凄い綺麗だね。こんな近くで見ても相当綺麗って凄いよね。正直こんな人種がいるんだってビックリしたよ」  少年は大げさなほどに賛辞の言葉を並べる。並べられた佑月には、苦笑いしか出てこないが。 「……それはどうもありがとう。それで、俺たちに何か用?」  そう訊ねる佑月に、ほんの一瞬少年は蔑むように口の端を上げた。

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