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陸斗の災難 2
「僕の後に、お兄さん達が入ってくるのが見えてね。めちゃくちゃ目立ってたし、僕も気になってたんだよね」
そう言って陸斗へと身を擦り寄せていく少年。陸斗は無表情で固まってしまっている。
(うわぁ……大胆な子だな……)
「僕お兄さんのことタイプなんだ。キリっとした目元に……きっとこの下は筋肉質な──」
「やめろ。触るな」
事もあろうに、少年は陸斗の胸元に手を滑り込ませていく。さすがの佑月も、バカみたいに唖然と口を開けてしまっていた。
それにしてもこの少年は、陸斗を恐がる事もしない。双子はキリっとした鋭い目元で、一見すると強面の部類に入る容姿だ。学生時代も、稼業のことは置いても、周囲には恐れられていたくらいだ。それを物ともしないなんてと、佑月は密かに感心さえしてしまった。
「ねぇ、連絡先教えてよ? お兄さん、男には興味なさそうだけど、僕お兄さんを悦ばせる自信ならあるよ?」
めげずに押してくる少年に、見た目では分からないが、陸斗の内心はきっと憤怒しているに違いない。しかも周囲の客は、興味ないふりをして、意識は佑月らにあるのが丸分かりだ。
「ごめんね、俺ら仕事だしそろそろ行かないと」
佑月は腕時計を見て、鞄を手に持つ。陸斗はホッとしたように「そうですね。早く戻りましょう」と鞄を持った。
「なぁーんだ。残念。またね、お兄さん」
席を立った佑月らに、少年も席を立ちヒラヒラと手を振る。
(……〝またね〟ね)
好奇の目を向けられながら佑月たちは、会計を済ませ外に出た。
「はぁ~……何なんですか、あれ……」
途端に陸斗は、脱力したように大きなため息を吐いた。
「……まぁ、何て言うのか……正直驚いた」
「とんだ災難ですよ。オレ、あーいうのダメなんですよね……」
「うん。陸斗はそうだよな」
陸斗は男女問わず、初対面で馴れ馴れしい人間は受け付けない。特にコンパなどで、女の子が良くやりがちな腕に触れたりなどは完全にアウト。第一印象で気に入っていても、それをやられた時点で急激に冷めて、嫌悪感が沸くそう。逆に海斗は、そういう面ではオープンと言うのか、全く気にならないらしく、むしろ女の子なら大歓迎という。
見た目はそっくりでも、中身は全然違う。そりゃ、それぞれ個性があるわけだから、当たり前のことなのだが。
「でも、あのガキ、こっちに気付いてて声掛けてきたっぽいですね」
「うん、そうだね。きっと初めから気付いてたよ」
「……え? 初めから?」
陸斗は驚いたように佑月を見る。佑月は黙って頷いてファミレスへと振り返ると、陸斗は疑問を浮かべた顔で同じように振り返っていた。
──翌日。
「そう……昨日もファミレスに……」
依頼主の自宅。まさに豪邸と言える大きな邸宅。贅沢な調度品も輝かしいほどで、迂闊に近付くことなど出来ないほどだ。
広いリビングへと通された佑月と陸斗は、オフホワイトの高級ソファに腰を下ろしていた。
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