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夜の公園 2

 今はいつもの車内。同棲の件は何とか(けむ)に巻くことができた。須藤も今は諦めたのか、何かの書類を読んでいて静かだ。だから佑月は一人、流れる景色をぼんやりと眺めている。  この後は、やっぱり須藤のマンションだよなと、チラリと須藤に視線を遣ると、真剣な横顔が佑月の目に入る。会話は車に乗ってからはないが、こうやって一緒にいる時間が佑月は好きだった。身体を重ねるよりも、もう少しこういう二人でいる時間が欲しい。そんな事を言って、須藤は聞いてくれるのだろうかと佑月はそわそわし出す。 「どうかしたのか?」 「あ……」  須藤は書類を鞄の中に入れて、身体を少し佑月に向けてくる。 「いや……その……」 「なんだ、遠慮なく言え」  言うだけ言ってみるか。ダメならしょうがないしと、佑月は自分に活を入れた。 「そ、そう? じゃあ……少しの時間でいいんだけど、ちょっとその辺歩きたいなぁって思ってるんだけど……」 「この寒い中をか?」  須藤がチラリと窓の外に目をやる。 「ダメならいいんです。ただ、もう少しゆっくり話とかしたいって思っただけだし」 (やっぱりダメそうだな……)  仕方ないとは思ったが、佑月の肩はガックリと落ちてしまう。 数秒ほど佑月を見つめた須藤は、不意に口元を緩め、佑月の頭を一撫でしてから運転席との仕切りを解除した。  運転席に座る真山は何かあったのかと、ルームミラー越しから佑月を窺い見てから、主人へと視線を移した。 「ボス?」 「真山、悪いが台場の公園につけてくれ」 (ウソ……聞いてくれた)  佑月のテンションは、子供のように上がっていった。 「公園ですね。かしこまりました」  真山は指示通りに、速やかに目的地へと車を走らせる。 「須藤さん、ありがとうございます」  須藤へと佑月が顔を向けると、須藤はフッと口元に僅かな笑みを浮かべて見せた。  まるで遊園地を前にした子供のような高揚感は続く。たかが一緒に公園内を歩いてるだけなのに、佑月は嬉しくて仕方ない。周りはカップルばかりだが。  しかも、須藤は帰りはタクシーで帰るからと言って、真山をそのまま帰らせた。少し渋っていた真山だが、ボスの命令に背くことは出来ずに、何度も何度も「お気をつけて」と心配しながら帰って行った。それが佑月には嬉しかった。やはり、真山を車で待たせるなど出来ないし、ゆっくりも出来ないから。真山には悪いが、そう思う佑月がいた。 「思ったよりは寒くないな」 「そうですね」  途中でコーヒーを買って、展望デッキのベンチに佑月らは腰を下ろす。この周辺はまだ人がまばらで、比較的佑月の気分も落ち着いた。

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