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トラブル 2
「あ、それでこれなんすけど」
海斗は茶封筒から中を取り出す。出てきた物は一冊の書籍だった。
「へぇ、凄い年季の入った本だな」
「はい。なんでも、世には出回らなかった幻の本らしいですよ。誇らしげに爺さんがわざわざ見せてきたくらいですし」
「マジか……凄いな」
「はい。なんか手が震えますよ」
海斗は顔では笑ってるが、慎重に本を茶封筒の中に入れ、金庫の中へと入れた。 そして海斗はメモ用紙を佑月に見せてきた。
「三日後に、この名前の人物に返して欲しいって依頼です。何でもウチの噂を聞いて、信頼して預けてくれたみたいですよ」
「そうなのか。それは嬉しいよね」
「はい」
笑顔で返事をした海斗だったが、不意に何かを思い出したような顔になる。
「そう言えば、さっきの依頼者の爺さん、意外と声は若かったんですよね」
「そうなんだ」
「はい。たまに女でもいますよね。声だけは若いってやつ」
「あはは……」
佑月は曖昧に笑ってみたが、海斗の言う通りに確かにいるのだ。こう言っては失礼だが、特に電話越しでは二、三十代の声に聞こえたものが、実際会うと六十前のご婦人というパターン。
(ちょっとその依頼者に会ってみたかったな……)
「ただいまです!」
「お帰り。二人ともお疲れ様」
暫くすると陸斗と花が帰ってきた。
「聞いて下さい! 今日の依頼のターゲットの女が、もう超ワガママで疲れましたよぉ」
花がグチると、陸斗も大仰に頷く。大きな声では言えないが、たまにこうやってグチる時もある。そんな愚痴を聞いてやり、みんなのストレスがたまらないようにするのも大事なことだ。甘い物を食べると、余計にストレスも発散できるようだし。佑月が買ってきた大福を頬張り、落ち着くと談笑へと変わって、平和な日常にみんなの笑顔が咲いていた。
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