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トラブル 3

■  海斗が受けた依頼から三日。佑月が単独の依頼からちょうど帰ってきた時に、それは起きた。 「え……中身が?」 『はい……。全く違うものに……』  受話口からの海斗の声。いつもの快活な明るい声は鳴りを潜め、深く沈んだ声。 「でも、出掛ける前に海斗が確認した時、俺もちゃんと確認したし、間違いなかったはず」 『はい……』 「とりあえず今すぐ向かうから」 『はい……ご迷惑おかけします』  佑月は直ぐにタクシーを呼んで、海斗の待つ依頼先へと向かった。  なんでも預かったはずの大事な書籍が、違う物になっていたらしい。タクシーに乗ってからも少し海斗と話をしたが、依頼品の茶封筒は、届け先まで肌身離さずしっかりと持っていたようだ。身内贔屓と言われてしまうかもしれないが、海斗が無用心に預かり物を放置をしないことは分かってる。それなのに中身が違うとはどういうことなのだ。外身である茶封筒は同じB5サイズだったらしいが。  色々と腑に落ちない。突然中身が変わるなんて、マジックじゃあるまいし、そんな非現実的なことが起こるのかと。 「遅くなって申し訳ございません。【J.O.A.T】の責任者の成海と申します」  とある雑居ビル内の事務所の一室。応接の間のソファには項垂れたように肩を落とす海斗と、受取人の若い女性が座っていた。 「わざわざお越し下さいまして」  厳しい表情かと思いきや、意外に柔和な笑みで女性は腰を上げた。 海斗も慌てて腰を上げ「すみません」と何度も佑月に頭を下げてくる。 「海斗、頭を下げるのは俺にじゃない」 「っ……はい……」  佑月が敢えて厳しく言うと、ハッとしたように、また頭を下げてしまう海斗。相当ショックを受けてるようだ。かなり動揺しているのが分かる。そんな佑月たちの様子に女性は口元に笑みを浮かべながら、「どうぞお掛けください」と佑月にソファを勧めてきた。 「はい。その前に此度の不手際、多大なるご迷惑をお掛けしました事を、深くお詫び申し上げます」  腰を深く折り、佑月は頭を下げる。海斗も隣に並び、同じように頭を下げた。 「とりあえずお掛けになって下さい」 「はい。失礼します」  佑月はもう一度頭を下げてから腰を下ろすと、女性は絶えず微笑みを浮かべていた。ずっと笑顔を向けられると恐いものがある。まだ二十代前半か、とても綺麗な顔立ちをしている。着衣は、会社の事務服のような服装に、首元にはスカーフが巻かれている。まるでCAのような制服だ。 「それで、お届け下さったのがこちらなんです」  茶封筒から中身を取り出し見せられた物。それは有名な作家の書籍。だがそれは預かった書籍ではなく、全くの別物だった。 「あ、誤解のないように申しておきますが、受け取ったその場所で、お互いに中身を確認したようですので」  受取人は海斗に視線を遣ってから、佑月へと目線を戻してきた。海斗も、その言葉に間違いはないと頷く。

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