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トラブル 4
ならばやはり、何処かで何かあったということだ。その何かが佑月には全く分からないが。とにかく中身が変わってしまっている現実は変わらない。
「いえ、申し訳ございません。こちらに原因がありますので、直ちに原因究明していきます」
「原因究明、出来るんですか?」
女性の声がワントーン落ちる。
「……出来る限りさせて頂きます」
「そうですか。随分と信頼されてるんですね」
チラリと海斗を一瞥する女性。女性の言いたいことは分かった。海斗に原因があることは確かなことだが、それ以上に海斗に疑惑の目が向いていることを。すなわち、盗んだ。と、言いたいのだろう。そう思われて仕方ない状況ではあるが……。
「お客様の信頼を無くす事をしたのはこちらですが、私は従業員一人一人を大切なメンバーとして心から信頼し、仕事も任せています。身内贔屓と言われればそれまでですが、彼らはいつでも受け持った仕事を一生懸命にしてくれています。ですから、今回の件はきっと何かの原因があるはずなので、それを早急に調べていきますので、どうかもう少しだけでもお時間頂けないでしょうか」
佑月と海斗は思いの丈をぶつけるように、女性に深く頭を下げる。隣で鼻を啜る音が聞こえ、海斗が泣いてることを佑月は知った。
一番悔しい思いをしているのは海斗だろう。暫く沈黙が続いたのち、女性は軽く息を吐いた。
「分かりました……」
その返事に海斗と佑月は同時に顔を上げ、再び「ありがとうございます」と頭を下げた。
「それと、誠に差し出がましい事なのですが……こちらへ伺う前に依頼主の島田様にお電話をしたのですが、繋がらなくて……。何時頃ならいらっしゃるかご存知でしょうか?」
そう佑月が訊ねると、女性の表情は一瞬で暗く翳った。
「そのことなんですが、私共もこの件に関して島田様にお電話したのですが……。つい昨日亡くなられたと……」
「亡くなられた……?」
佑月と海斗は思わず顔を見合わせた。依頼主の島田には会ったことがないが、突然の訃報に驚きと信じられない思いが佑月にはあった。
「……はい。もともと心臓が弱い方だったので」
「そう……ですか……。ちゃんとお会いして謝罪したかったのですが。残念です……」
なんとも悔やまれる。亡くなられてしまっては、もうどうにも出来ない。謝ることさえも出来ない。一番最悪なパターンだった。
佑月は項垂れそうになるのを堪え、フッと顔を上げると女性と目が合った。
「……どうかされました?」
思わず佑月はそう訊いていた。いかにも凝視してましたといった視線に、佑月は面食らう。
特に気持ちが沈んでる時に、そんな冷静な目を向けられると、尻込みまでしてしまいそうだ。
「いえ。ただJOAT様の誠意がとても良く伝わりましたので」
「……そうでしたか。ありがとうございます……」
(何だろう……)
まるで上辺だけのセリフを並べる女性に、佑月は何か妙な違和感を感じた。
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