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トラブル 5
「それで、こちらの件ですが」
女性は口元に笑みを浮かべ、書籍を茶封筒へと入れる。話の軌道を修正する女性に、佑月はとりあえず自分の感情は押し込めることにした。
「はい」
「また改めてこちらからご連絡差し上げます」
「……わざわざそちらから?」
非があるのはこっちなのにという思いで吐 いた佑月の言葉に、彼女は僅かに苦笑する。
「実は、私は代理で伺わせてもらってますので……。まだご本人にはこの事を知らせてません」
「そうでしたか……。分かりました。それではご連絡お待ちしてます。こちらもそれまでに調べて参ります」
「はい。宜しくお願いします」
佑月と海斗は再び頭を深く下げてから、ビルの外へと出た。そして佑月はその雑居ビルを見上げる。
「どうかしました?」
海斗が怪訝そうに訊ねてくるが、佑月はゆるく首を振った。
「そうですか……。あの、今回のことは本当にご迷惑おかけしてすみませんでした」
「うん。海斗がちゃんと仕事をしてくれてるのは分かってるから、あまり気を落とさないで。とりあえずちょっと遅めの昼飯食いに行こう」
まだまだ気持ちが落ちてる海斗を連れて、佑月らは近くのファミレスへと入った。各々食べたい物を頼んで、腹が減っていた佑月は安いステーキ肉を一気に口に詰め込んでいく。海斗は食欲がないのか、好きなハンバーグ定食を前にしてもあまり箸が進んでいない。
「佑月先輩……少し話したい事があるんですけど、いいですか?」
海斗はフォークを置いて、少し身を乗り出してきた。 佑月はコクリと頷いて、フォークとナイフを置いた。
「ここでならゆっくり話せるしね」
「ありがとうございます……」
海斗は少し安心したように、強張っていた筋肉をほぐしていった。そして、何か気掛かりでもあるのか、一瞬逡巡してから口を開いた。
「……実はあの時、責任転嫁だって思われるとイヤだったので言わなかったんですけど……」
やっぱり何かあったようだ。
「うん、気になった事は何でも言って」
「はい。その……届け先までの道中で、オレ人にぶつかってるんです。いくら記憶を辿っても原因があるとしたら、それしか思い当たらなくて……」
「何処で?」
「オレが電車から降りる時、乗ってくる男と。めちゃくちゃ混んでたんですけど、わざとらしい当たり方でムカついたから顔見てやろうと思ったんすけど、人混みに紛れて顔は分からなかったんです。でもそいつ、多分なんですけど、同じような茶封筒を持ってるのが見えた気がしたんですよね。だから怪しいとすればそれしか……」
悔しそうに眉を寄せる海斗。
「そっか……。それも要因の一つとして考えられるかもな。でも、すり替えられたと考えるにしても、何のために? 今回の依頼にしたって、こっちからは外部に漏れるなんて事があるはずがないのに。これを知ってるのは依頼人と受取人と俺たちだけだろ? その依頼人は亡くなってしまったけど」
「……確かにそうですよね。まさか……何か作為的なものですか?」
海斗は途端に厳しい表情になる。
「それはまだ確証も何もないから、疑うのは良くないけど。んー……疑問は残るよね」
佑月は頭を捻った。すり替えられたと言っても、海斗は茶封筒を直接手に持っていた。それを海斗に気付かれずにすり替えられるものなのか。その道のプロなら、もしかしたら出来るのかもしれないが。それでは更に、今回の依頼が仕組まれたものだと、思わざるを得なくなる。
だが何のために?
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