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トラブル 7

 この場所に島田が住んでいるなら尚更、駅へと向かうなら佑月とすれ違ってるはずだ。タクシーだったとしても、方向から考えると、通りを渡らなきゃならない。それほどに、島田宅は佑月らの事務所からは遠い場所にあった。 「やっぱここ、テナントしか入ってないな」 「そうですね……」 「しかもここも空き部屋になってる」  佑月は鞄からスマホを出し、島田の電話番号を発信した。 「どう思う?」  例の部屋の前で二人、片耳を扉に押し付ける。部屋から鳴り響く電話の音。 「誰も居ませんよね。そもそも住んでる気配もないですよ。それなのに電話が繋がってる」 「うん。だから全くの空き部屋ってワケではなさそうだね」  通話を切ると、部屋の電話の音もピタリと止まる。そして佑月は、その隣に入ってる猫カフェへと足を向けた。 「いらっしゃいませ」  スタッフの笑顔と多種多様の猫たち。佑月は海斗とともに中へと入った。可愛い猫たちが思い思いに過ごしているのが目に入る。表情筋が緩んでしまいそうになるほどの可愛いさだ。 「すみません。少しお尋ねしたい事があるんですけど、お時間よろしいですか?」 「は、はい、大丈夫です!」  若い女性スタッフは、頬を赤く染め、大きな目をぱちくりと愛嬌よく開いて返事をしてくれた。 「こちらの隣に入ってる部屋って、誰か住んでたりしますか? 例えば男性で年配の方とか」 「いえ。お隣には誰も住んでませんよ? 住居にという意味でしたら、この建物に住んでる方はいません。テナントばかりですし」 「そうですよね……」  やはり誰も住んでないか。となると、島田は一体何のためにこんな場所の電話番号を記したのか。 「ちなみに、お隣の借り主さんをご存知だったりします?」 「いえ。お隣はイベントなどの催しの時に使われてるみたいで、色んなお店が入るんですよ。だから普段は空き状態で、ちょっとした借テナント的な感じで使われてると思います。だから借り主が誰かとかまではちょっと分からないんですけど……」  見ず知らずの人間の怪しい質問にも、女性は嫌な顔せずに答えてくれる。 「なるほど借テナントですか。ありがとうございます。お忙しい中お時間取らせてしまって、申し訳ありませんでした」 「いえ、全然大丈夫です!」  女性の明るい笑顔に見送られ、佑月たちは雑居ビルから出た。 「うーん……電話番号や住所は依頼の内容によっては訊ねる事はないし、その他の依頼でも空欄ってことはよくあるけど、普通のお爺さんがわざわざ嘘の電話番号を書くのは、ちょっと不自然だよね……」 「確かにそうですよね。爺さんとここの関連性もよく分からないですし。ここのこと早急に調べさせます」  海斗はそう言うや否や、スマホで何処かに掛けている。きっと組が面倒を見ている若者グループにだろう。

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