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トラブル 8

 世間からはみ出したような若者を、西内組が面倒を見ている。組員ではないが、組のための忠誠心は並みではなく、かなり深いものらしい。そう育てられていると。だが彼らは謂わば傭兵部隊で捨て駒。組員がパクられるような時に、身代わりになったりするようだ。もちろん本人らは承知のことらしい。  海斗らは組の仕事には興味はないが、そんな彼らのことは常に気にかけている。面倒を見てやったりと親身な双子に、若者らはかなり慕っているようだ。 「ありがとう。あの子たちが動いてくれると早いからね」 「いえ。佑月先輩に会いたがってますよ。相変わらず先輩のファンが多いですから」 「あはは、それは嬉しいね」  実は佑月も何度か会ったことがある。十代から、中には二十代前半の子たちもいるが、本当に若い子供たち。  やっていることは決して誉められる事ではないが、一人一人話すと本当にいい子らで仲間思いである事が分かる。彼らの仕事は危険な事が多いが、みな頭が良く、精鋭部隊として乗り切ってるようだ。 「先輩この後はどうします?」 「とりあえず一旦事務所に帰って、夜にちょっと寄りたい所があるんだ」 「オレもお供させてもらってもいいですか?」 「もちろん」  事務所に帰るためには、ここから乗らなければならない(くだん)の地下鉄の駅に、佑月らは着いた。 「そう言えば駅のホームって監視カメラ付いてるところ結構ありますよね? 見せてもらえないですかね」 「残念だけど、監視カメラは一般人である俺たちには見せてはもらえないよ」 「あぁ……やっぱそうですよね……」  ガックリと肩を落とす海斗。本当なら見せて欲しいところだが。名残惜しさがあるが、佑月と海斗はそのまま電車へと乗り込んだ。  事務所に戻ると、陸斗と花も帰ってきていた。そして今回の件を佑月が説明すると、二人は揃って深刻な顔つきになった。 「そうだったんですか……。オレも協力出来ることは何でもしますから」 「もちろん私もです」 「ありがとう。でもまだ何も分からない状態だし、こちらに落ち度があって、お客様の信用も無くし兼ねない状況だということには変わりないし。また何か情報があれば知らせるね」  二人は「分かりました」と言うと、海斗の肩をそっと叩いていた。  営業時間も終わり、佑月は海斗と目的の場所へと向かう。陸斗も行きたいと言っていたが、花を一人で帰すわけにはいかない為、渋々とお見送りとなった。 「ここは?」  タクシーから降りると、海斗は不思議そうに店の入り口を凝視している。 「……うん。とりあえず中へ入ろ」 「はい……」  怪訝そうにしている海斗を背中に感じながら、佑月は少し緊張が混じった足取りで、程よく照明が絞られた店内を進んだ。 「おぉ? 成海くん珍しいね。いらっしゃい」 「こんばんは、中村さん」  ピアノの柔らかな調べ。 シックな雰囲気は相変わらずで、佑月はいつも自分は場違いで浮いていると思ってしまう。  そう、ここは佑月が須藤と二人でよく訪れるbar【espoir】だった。

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