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トラブル 9
「どうぞお二人さん。まだ早い時間だから客もいないし、貸し切りにしておくね」
中村は佑月たちにカウンター席を勧めて、入り口へと向かっていく。
「そんな貸し切りだなんて、大丈夫ですよ、中村さん」
自分らのせいでお客を逃してしまうのではと、佑月は焦る。
「いや、でも念のためにね。少しでも気兼ねなくゆっくり話せる方がいいでしょ?」
「あ……すみません。ありがとうございます」
中村は目元に優しげなシワを寄せて、笑みを見せる。きっとただ飲みに来ただけではないと、分かってくれているのかもしれない。
「では改めて、彼はうちの何でも屋の従業員でもあり、友人でもある西内海斗です。海斗こちらがマスターの中村さん」
「はじめまして、西内です」
「こんばんは中村です。ようこそespoirへ。どうぞどうぞ、立ってないで座ってよ」
「はい」
二人スツールに腰を下ろしてから、佑月は海斗に内緒話をするように身を寄せた。
「実はここ、須藤さんの馴染みのお店なんだ」
「え……あ……そうなんですか」
「うん。よく連れて来てもらっててね……。それで中村さんにはいつも親切にしてもらってるんだ」
「そうだったんですね……。なんかオレ浮いてますね」
海斗は小声で呟いてから、店内をぐるりと見渡していった。
(大丈夫。俺もいつも浮いてるから)
不意に中村は何かを思い出したかのように「あ」と、手をポンと叩いた。何事かと二人揃って中村に注目する。
「西内と言うと、あの正厘 会系列の西内組の息子か?」
その言葉に海斗は一瞬驚くが、直ぐに首肯した。
「え……はい。よく分かりましたね……」
「三年前までは警察の人間だったってのもあるけど、まぁ、色々情報は入ってくるからね」
「そうだったんですね」
陽気に笑う中村。海斗は更に驚きながら佑月を見る。佑月は苦笑を浮かべ、頷いた。
「確か双子だった記憶が」
「はい、そうです。オレは弟です」
「そうか、弟か」
中村は懐かしむ様に、目を細めていた。十年ほど前に、ある事件で西内組に疑惑の目が向いていた時、まだ中学生だった双子たちを見たことがあったようだ。まだまだあどけない少年だったのが、見た目も随分と凛々しい顔つきになったと、中村は溢していた。
「それで成海くん、今夜はどうしたのかな? 〝いつものツレ〟もいないし、ただ飲みに来たってワケじゃなさそうだしね」
〝いつものツレ〟のフレーズに苦笑がもれる中、佑月は頷く。
「はい、実は少しお訊きしたいことがありまして」
「成海くんの為なら、答えられる事は答えさせてもらうよ」
「ありがとうございます」
とりあえず何も頼まないワケにはいかないため、佑月はカミカゼを頼んだ。海斗もこういう大人barは初めてなものだから、佑月と同じものを頼んでいた。
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