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トラブル 12
今は一人になったアパートでベッドに横になって、佑月は喉まで出掛かってるものと格闘していた。あの、事務服を着た女性。
ファミレスにいた時、海斗には深い意味はないと言ったが、佑月の中ではやっぱりどうしても燻るものがあった。会ったことはないはずなのに、何処かで会ったことがあるような感じ。以前にもそんな風に感じた人間がいた。
外見がどうのではなく、雰囲気。佑月はあの女性と話していた時を反芻するように、仕草や話し方を思い出す。
自分の物ではないにしろ、届けられるはずの物が別の物に変わってしまっていたのに、妙に落ち着いていた。普通なら不信感や怒りといった感情が、少しは現れるものなのに。海斗を疑う口振りだった時も、なんて言うのか、そうだったとしてもその事実は、どうでもいいような気がしたのだ。それに、良く言えば余裕のある対応なのだが、ほぼ笑顔で対応していたのも引っ掛かった。
「笑顔……」
そこで佑月は、飛び起きるようにベッドから身体を起こした。
「あの口元だ。笑みを作るときの口角の上げ方……」
暖房はきつくないのに、一気に汗が流れ、佑月は同時に身震いを起こした。
「なんだ……この感覚……」
バラバラだったパズルのピースが、少しずつはめ込まれていく感覚。何も根拠はないはずなのに、次々とピースが埋まっていく。
そこから見え隠れするものに、佑月はシーツを無意識に掴んでいた。
「っ……」
佑月は息を呑む。それがやけに大きく、佑月の脳内に響いた気がした──。
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