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接触
◇
とあるマンションの一階。2LDKの一室で、男三人がパソコンの画面を食い入るように見つめている。
「このビルを所有してるのは、田口興産……いわゆる、柿田組のフロントってやつです」
パソコンのキーボードを叩き、精悍な顔をした青年は、佑月と海斗の顔を交互に見やった。
柿田組はUSBを巡った依頼で、佑月と須藤が初めて出会うことになったあの出来事に、深く関わっていた組だ。佑月はそこの若頭の男のナニを、咥えさせられようとしていた。
嫌な記憶に佑月は思わず嘆息した。そんな佑月に、パソコンの前に座る青年は心配そうに見つめてくる。そのため何でもないことをアピールするために、佑月はニッコリと微笑んだ。
ここは、西内組が面倒を見ている若者グループが住まうマンション。そのパソコンの前に座る青年、杉野がグループのリーダーだ。
杉野は少し安心したように佑月に笑みを返してから、直ぐに表情を引き締めた。
「それで島田のじいさんなんですが、色々調べたんですが、都内で死んだ日に『島田』と該当する男はいませんでした。生きてるとして界隈を調べてみても、合致する人間がいませんでした」
杉野は真っ直ぐに佑月の顔を見て言う。佑月は海斗と顔を見合わせた。
「やっぱり偽名ってことっすね。もしかして柿田組の人間ですかね? あのじいさんも対応した女も……」
「……どうだろうね。でも、全く関係がないとは言えないかもな」
暴力団が所有する部屋を、一般企業の人間が使えるとは少し考えにくいからだ。 だが今さら柿田組がなぜ関わってくるのか。USBの件で邪魔されたことをまだ根に持っているのか。
確かに仮にも若頭という地位にいる男が、部下の前で恥をかいたのだ。腸 が煮えくり返る思いだっただろうとは、容易に想像はつく。
だが、あれから半年以上も経っているというのに、何故今頃になってなのか。今は情報が少なすぎて、想像するだけしか手立てがない。
しかし安易に偏った想定は危険を生むだけだ。そう結論付け、佑月が余計な思考を振り払うように軽く頭を振った時、杉野が佑月へと振り返ってきた。
「カラスに繋がりました」
「え? 本当?」
海斗と二人パソコンの画面を覗き込んだ。ここのパソコンなら万が一のことがあっても、直ぐに対処出来るようで、杉野は快く協力してくれたのだ。
「はい。リアルタイムに返事が返ってきてます」
確かに画面上には、向こうからの返信らしきものが打たれている。
「どうにか会える良い方法はないかな」
「そうですね。普通に会うように頼んでも無駄でしょうから、どうしましょう」
確かに依頼をしなければ接触は難しい。だが、依頼をしたからって直接会えるとは限らない。こうやって闇サイトで仕事を請け負ってるくらいだから、依頼者と会うことは避けるのが普通だろうから。
「ちょっと待ってください。これ……」
杉野が画面を差す。そこには『依頼を受けるのは信頼する者のみ』と記されていた。
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