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接触 2
「信頼する者のみって……こんなものに信頼を求めるもクソもないように思いますけど?」
杉野は不可解とばかりに吐き出す。確かに言葉通りに受けとると、相手の素性も分からないような人間に、信頼性を求めるのはどうなのか。だがそれは、中村が言ってたように、カラスはそれを仕事として請け負っている。だからこそ、少しでもカラスにとって欠けるものがあれば、依頼を受けないってことを伝えてきているのだ。
「嘘は見抜けるってことを言いたいんだと思うよ。〝信頼〟はただの表面上だけの言葉でね」
「……さすがに簡単にはいかないってことっすね」
海斗は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「なるほど……ではどうします? こちらで人を用意して依頼するってのも有りだと思ったんですけど、バレますよね」
せっかくの案だが、佑月は杉野にゆっくりと頷いた。
「警察もそういうあらゆる手で捕まえようとしたみたいだけど、ダメだったみたいだから、きっと勘づかれるし、それもやっぱり騙してることになるから……」
「そうですよね……」
正直、犯罪者である人間に何故これほどまでに気を使わなくてはならないのか、という思いはある。しかも会える確率が格段と低い相手に。だけど今はほんの少しでも今回の事に繋がる要素があるなら、我慢するしかないのだ。
杉野はどうしようかと、困った顔で佑月の指示を待っている。
「ここは、一か八 かで行くしかないよね……」
今繋がってるこの時に次を講じないと、ログオフされてしまうと、もう二度とチャンスは巡ってこないだろう。
先ず昨日の地下鉄のホームで、男性から茶封筒を取る依頼があったかを尋ねた。が、もちろん〝知らない〟と返される。時間や、海斗の人物像を詳細に伝えたが、知らないの一言。
普通に考えたら正直にやったと言う人間はいないだろう。それに本当に依頼されてない場合もある。
「どうしましょう? これじゃヤってても、正直には答えないっすよね。他の手を考えた方が……」
「そうだな……」
他の手といっても、偽ることさえ出来ないこの状況では、何もかもが難しい。どうすべきかと佑月が頭を抱えていると、杉野が「あ……」と画面に乗り出した。
「どうしたの?」
「これ見てください。向こうから何か言ってきてます」
佑月と海斗は画面を覗く。
「なになに? 『そちらからの質問ばかりに答えるのは、いささか不公平だとは思いませんか? 先ずそちらが一体何者かを名乗るのが礼儀だと思いますが』ですって」
海斗は文章を読み上げ佑月へと顔を向ける。
画面上のやり取りでは、とても丁寧な口調だ。その冷静とも言える面が、一層難しい相手だと伺わせるかのようだ。
「ごめん、杉野くん代わっても?」
「あ、はい。どうぞ」
杉野に席を替わってもらうと、佑月はパソコンのキーボードを打ち込んだ。
「ちょ……先輩」
「いいんだ。例え相手が今回の事とは全く関係がなかったとしも。今はとにかくほんの僅かな情報が手に入るなら名前くらい」
「でも……」
海斗は画面に打ち込まれた佑月の名前に、不満と不安が混ざったような声をこぼした。
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