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接触 6

 どういうつもりなのかは分からないが、下手な返しは避けなければいけないことだけは、佑月にも分かる。 「今回に関しては従業員の事を優先に考えてます。だから俺は、真実だけを知りたいんです」 「でもそれだと、成海さんが困るのではないのですか? 仕事でと仰ってましたので、証拠となるものが提示出来ないと仕事にも支障が出るのでは?」 「そうですね。本当ならとても困ります。先方にも原因を突き止めると申しましたので。ですが、今は真実さえ分かればいいと考えてます」 「なるほど。真実さえ……ですか」  そう呟いたカラスは突然、声を上げて笑った。そして訝しげな視線を向けた佑月に、カラスは直ぐに咳払いをして、申し訳なさそうに眉を下げた。 「失礼。今回の事によほど疑念をお持ちのようですね」  やはり、決定的な言葉を避けると、カラスはそれなりの答えをくれる。一見普通の疑問のように聞こえるが、今の流れから、今回の事が仕組まれた事だということを教えてくれている言葉だった。 「ええ。貴方に会えた事はとても有益な事になりました」 「そうなんですか? 私は何も益になることは申してないはずなんですが」  カラスはにっこりと笑む。  スマートフォンを机上に置いておいても、音声では証拠になるものは決して口にはしない徹底ぶり。用心深さは流石と言うべきなのか。だが佑月を拒絶することなく、答えをくれる。そこがやはり佑月は気になった。カラスは佑月の疑問を見透かしたように、再び口を開いた。 「成海さんに会いたかったのは、実は私自身の興味と言っておきます」 「貴方自身の興味……ですか。貴方は俺の事を知ってるのですか?」  そう佑月が尋ねてみたが、カラスは微笑むだけで、答えをもらうことは出来なかった──。  タウンから抜けると、佑月は肺に溜めていた息をゆっくりと吐き出した。あれ以上あの場にいても、カラスはもう何も答えないだろうと見て、佑月は早々と切り上げてカラスの元から去った。  本当はまだまだ色々と疑問がある。依頼されたはずのカラスが、その対象者である佑月に真実を教える。直接会って少しの手応えさえあればいいと思ってただけに、佑月は正直驚いていた。それに興味だと言っていたカラスのあのセリフは、少なくとも佑月を知っているということだ。それは〝裏絡み〟が関係しているのか、はたまたカラスの依頼人と関係しているのか。それは分からないが、最後にカラスは佑月に『気をつけて』と言ってきた。もちろん帰る道中を心配しての言葉ではなく、今回の事が、そう単純ではないことへの忠告だと言うことで。  決してカラスは味方ではないが、その興味とやらのお陰で、貴重な真実を得られたのは間違いはないのだが。 (厄介な事になってきた……)

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