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《Background》
◆
「お疲れ様です」
恭 しく頭を下げ、真山はマイバッハの後部座席を開ける。須藤は直ぐに乗り込み、シートに深く腰を沈めてネクタイを僅かに緩めた。
夜もどっぷりと更け、一時を回った時間。須藤は腕時計を見て、舌打ちしそうなのを何とか堪えた。もう少し早い時間なら佑月に会いにいけたものをと、須藤は先程出てきたばかりの料亭【雅】を一瞥した。
ある大物議員との食事。話に花が咲いた年寄りの与太話に付き合い、帰るタイミングを逃し今となった。どうでもいい人間なら気にすることなく帰るが、まだ須藤にとって何かと利用価値のある人間だったため、仕方なしに話に付き合っていたのだが。そのせいで時間が遅くなってしまった。
かれこれ佑月とはもう一週間近くも会っていない。そのため我慢の限界まで来ていた。
佑月に触れたくて仕方がない。本当なら毎日でも抱きたいと、常々思ってることゆえに。佑月と出会う前なら、時間が空けば、須藤の好きな時間に女を抱くことができた。極上のいい女ばかりで、それなりに不自由もなかったお陰で、須藤が同じ女を二度抱くことはなかった。
美しい物が好きという須藤の嗜好は周知のことで、美しい男も寄ってくることがあったが、須藤は今まで男は抱いたことはなかった。わざわざ男を抱く必要がなかったからだ。
だが佑月に出会って初めて、一人の人間に興味を引かれた。この自分に怯むことなく、真っ直ぐと見据えてきたあの瞳。美しい容貌に似合わない肝の据わりよう。
ただ怯えてばかりの男なら、さして須藤も興味もわかなかっただろう。だがあの目を見た瞬間には、もう既に須藤の心は佑月へと落ちていた。だから今では、毎日抱きたい衝動を抑えるのに必死にならなければならない。
抱けば抱くほどに、その魅力にはまっていく。身体だけではなく、佑月全てに魅了されていたがために。男のくせに白く滑らかで、美しい肌の感触を思い浮かべていたところ、鞄に入っていたスマホがバイブで着信を知らせてきた。
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