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《Background》 5
村山が須藤に惹かれていたのは、須藤自身しか知らないことだったが、須藤の周囲に敏感なリアンには容易く見抜けることだったのだろう。そして村山を焚き付け、佑月を潰そうとした。村山を消すことも最初から視野に入れて、リアンは黒衿会の小寺派の人間に取り入ることも忘れなかった。
「ボス……このまま放っておくのですか?」
須藤のすることには滅多に口を出さない真山だが、今回は堪らずといった風に尋ねてきた。それは佑月が関係しているからだろう。
佑月が男にレイプされかけていた件も、リアンが絡んでいた。須藤自身は直ぐにリアンが絡んでいると分かったが、証拠がなかった。後で真山に調べさせると、佑月が襲われたホテルの支配人ともリアンは関係があり、須藤がホテルに現れると連絡を入れるよう協力していたようだ。
リアンのやり口は、自らの手を汚さないこと。対象者を煽るだけ煽って、用が済めば消す。 裏社会に住む人間らしいやり口と言えばそうなのだが。
「あんな物に構ってる暇はない」
「ですが……」
リアンも自分が必ず浮上することくらいは計算している。それは、どんな形であれ、須藤がリアンのために時間を割くことを望んでいるためだ。
その思惑に乗ってやる義理もなければ、小物以下の相手をするほど暇でもない。それにリアン自身、自分が無視されていることの方が堪 えるからだ。
しかし、真山が心配するように、これ以上佑月に危害を加えられるのは確かに許しがたい事だ。一度は忠告し、そして今まで須藤がリアンに直接手を下すことをしなかった意味を、リアンがしっかりと汲み取り、早々に見切りを付ければまだ利口だと言える。
だが、まだ何かするつもりなら……。
「次はない」
「はい」
怒気の含んだ須藤の声音は、真山の心髄にまで響く。
真山は力強く返事をし、深夜の国道を走らせた──。
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