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最悪の 2
佑月はこっそりと女の様子を窺う。女性にしては丸みというものがなく、少し骨張った感じで細身だ。だが今の若い女性は、モデルのように細い子が多いから、違和感はない。
服装は以前と同じで事務服。首もとだけは以前とは柄の違うスカーフが巻かれていた。
「どうぞ」
「すみません、ありがとうございます」
二人のまえに紅茶が注がれたティーカップが置かれる。だけど、出された物には失礼を承知で、口を付けない事を海斗と前もって話してある。万が一ってこともあるからだ。
「あの、少しお訊きしてもよろしいでしょうか」
佑月の問いかけに、一瞬間が開いてから、女は「どうぞ」と笑顔を向け対面のソファに腰を下ろした。
「受取人の方は貴方の上司なのでしょうか? どういった方なのかお伺いもしていなかったので。何か失礼があってもいけませんので」
今さら失礼も何もないが、一応こういう時の常套句が、佑月の口をついて出る。
「いえ、上司ではありません」
「では同僚ですか?」
「同僚でもないです」
微笑を浮かべつつも、女性の目は完全に笑ってはいない。
「そうですか……。てっきり会社関係なのかと」
「どうしてですか?」
心底疑問といった風に、女性は首を傾げる。
「着てらっしゃるものが事務服のようですし、てっきり……」
「これは、お客様に応対するのに適した服を身に付けているつもりです」
「……なるほど」
(適した……ね)
女性の的外れな答え。もしかすると、真剣に答えを言う必要がないと思われているのかもしれない。佑月が海斗とこっそり目を見合わせていた時、女が不意にソファから腰を上げた。
「来られたようですね」
女はそう口にし、佑月たちの背後へと視線を遣る。ついに対面かと、佑月と海斗もそれにならい腰を上げた。そして自然な流れで振り返る。
「待たせてしまって申し訳ない」
微笑を湛 えながら、優雅な足取りでやってくる男。須藤ほどではないが、上背があり、がっしりとした体格。世間では中年と取れる年齢だろうが、若々しく自信に満ち溢れた表情。
「っ……」
佑月の息を飲む気配を感じ取った海斗が、怪訝そうに佑月の顔を窺ってきた。
「先輩?」
だが佑月は、頭の中が真っ白になり、答える事が出来ない。目の前の光景を、受け入れることを拒否しているかのように。
──うそ……だろ。
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