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最悪の 5

「終わったら必ず連絡するから、ここはとりあえず俺に任せて」  佑月は相手に聞こえるようにはっきりと告げる。連絡がなければ何かあったと思えと、相手側に牽制の意味を込めて言ったのだ。これでヘタな真似は出来ないだろうと。  海斗は暫く唸ってから 「本当に大丈夫でしょうね? 後でちゃんと聞かせてもらいますからね」と念を押してきた。 「……うん、もちろん」 「分かりました」  海斗は軽く溜め息を吐いてから、ソファから腰を上げた。 そして円城寺に頭を軽く下げて、何度も心配そうに振り返りながら、部屋を去って行った。  佑月が海斗を見送っていた顔を正面に戻すと、円城寺がじっと佑月を見ていた。眉をひそめて佑月は見返すが、円城寺は目を逸らすことなく、舐めるように見つめてくる。  見るなよ、気持ち悪い。とは言えないから佑月は睨むことしか出来ない。 「私の思っていたとおりだ」  徐に円城寺は立ち上がり、佑月の傍へとやってくる。思わず逃げ腰になる自分に叱咤し、何とかそれを佑月は堪えた。だが、逃げない佑月に気を良くした円城寺は、佑月の顎に手をかけ持ち上げてきた。 「触らないでください」  真上から見下ろしてくる円城寺を睨み上げながら言うが、佑月の声が聞こえてないかのように、微笑まで浮かべている。 「豪華な宝石でさえ霞むほどの、美しさだ。待っていた甲斐があった」 「離してください」  頬に移ったその手をやんわりと払い「これは何の真似ですか?」と感情を抑えた低い声で問う。 「何の真似とは?」  円城寺は払われた手を見て苦笑しながらも、怒ることなく元いたソファへと腰を下ろした。 「(とぼ)けないで下さい。こんな子供染みた嫌がらせをして」 「嫌がらせとは失敬だね」 「嫌がらせでしょ。島田という男だって調べたら界隈にはいませんでしたし。大方、誰かに変装でもさせたのか、それとも誰かを雇ったのかは知りませんが、わざわざ依頼で持ちかけてくるなんて」  チラリと含みを持たせた視線を女にやって言うと、円城寺は傍らに立つ女に視線を移した。  二人の視線に、女はわざとらしく肩を竦めて苦笑している。円城寺の表情では何を思ってるのか、上手く読み取れない。 「佑月、証拠もないのに一方的に責めるのはよくないね」 「証拠? 今更そんなもの必要ですか? あなたが出てきた事で、これを偶然と片付けるなんて、俺には出来ませんが」  佑月が吐き捨てるように言うと、円城寺は片頬を持ち上げ苦笑し「まぁ、そうだろうね」といけしゃあしゃあと言う。 「普通に会うだけでは面白味がないからね」とまで言ってのける。 「では、認めるんですね。今回の依頼はあなたが仕組んだと」 「仕組んだとは人聞きの悪い。なぁ、そうは思わないか?」  円城寺は女に同意を求めると、女は愉快そうに笑みを深め「ええ、そうですね」と答える。  のらりくらりと躱されることが腹立たしいが、ここは冷静に相手をしなくては向こうのペースに乗せられてしまう。それだけは避けたい。

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