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最悪の 7

「もう少しゆっくりと話したかったが、そろそろ本題に入った方がよさそうだね」  円城寺は足を組み替え、その膝の上で両手を組む。本題に入って嫌なものを聞かされるのも苦痛だが、この男とゆっくり話すのも遠慮したい。それ故、佑月は少し身構えた。 「単刀直入に言おう。佑月、また私と一緒に住みなさい」 「……」  身構えていたのにも関わらず、一瞬頭の中が真っ白になる。  〝一緒に住みなさい〟その台詞が漸く理解が出来た時、佑月は怒りで目の前のティーカップを投げ付けてしまわないよう、拳を握りしめなければならなかった。 (また一緒に住めだと? 俺にまたあの悪夢のような日々を送れと? 状態じゃない) 「なぜ俺が、あなたと住まなければいけないんですか」 「なぜ? それは佑月は私の大切な家族だからだよ。それ以外に理由などないよ」 「家族? 笑わせないでください」  佑月は怒りで怒鳴り付けたいのを必死にこらえ、円城寺を睨み付ける。 「貴方は確かに母と一緒にいることがありましたが、俺は貴方を家族と思ったことは一度足りともありません」 「そんな悲しいことを言わないでくれないか」  円城寺はさも悲しげに眉尻を下げて見せる。そんな嘘臭い表情にも怒りが込み上げてくる。 「円城寺さん、貴方は自分が過去に何をしたのかお忘れなんですか?」 「もちろん、忘れるわけがないだろう」  そのセリフで佑月の我慢という糸は、簡単に切れてしまった。 「なら、よくもそんなことが言えたもんだな! あんたみたいな最低野郎と、同じ空気を吸うだけで反吐が出そうだ」  勢いよくソファから立ち上がり、部屋を出ようとした佑月に「待ちなさい」と静かな声がかかる。 もちろんそんな声など無視をして佑月は扉に向かうが、不意に手首を強い力で掴まれた。 「っ……」  振り向いたその先には笑顔を貼り付けた女がいた。佑月の眉間にシワが寄っていくのは、女の力とは思えない程の強い力で、手首に力が加えられていくため。 「お戻りください」  手の力とは裏腹に、顔は涼しげな微笑みを浮かべている。佑月は掴まれている手首に視線を落としてから女に顔を戻した。 「離してもらえますか」 「いいえ。離すと帰られるでしょ?」 「ええ、もちろん」 「でしたら、離せません」  乱暴に振り払ってやりたいが、それが出来そうにもないと嫌でも痛感してしまうほどの握力。男のくせに非力過ぎる自分を情けないと思う暇もない。強い締め付けによって手先に血が通わない程で、指先が冷たくなっていく。 「佑月、最低野郎と罵るのも結構だが、私は佑月の交遊関係こそ改めるべきだと思うがね」 「なに?」  ゆっくりとソファから腰を上げる円城寺に、佑月は視線を移す。 「須藤 仁」 「つっ……!」  須藤の名が円城寺の口から出た瞬間、手首に激痛とも言える痛みが走った。

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