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最悪の 13
身体の痛み、喉の痛み、あらゆる箇所の痛みで佑月は目が覚める。どうやらいつものように、気を失っていたようだ。
(今、何時なんだ……)
ベッドには須藤の姿がない。両手首は解放されている。シーツは新しい物に換えたのか、不快感がなかった。
だがいつもは絶対に感じない痛みがあった。後ろがズキズキと痛む。佑月は恐る恐ると手を後ろに持っていき、後孔に触れる。
「っ……」
腫れと裂傷があるようで、少し触れるだけで、かなりの痛みが走った。そしてそこに、何かぬるりとしたものが同時に触れる。一瞬精液かと佑月は思ったが、それとは何か違うクリームのようなもの。どうやら薬のようだ。
そんな気遣いを後で見せながらも、セックスは一方的で思いやりもないような扱いだった。
あんなことは初めてだった。いつだって須藤は、佑月が傷付かないように、丁寧な愛撫で思考も身体も蕩けるほどに時間もかけるというのに。
今夜のことは、きっとお互いに肉体的な快感はあっても、本当の意味での快感は得られていないだろう。嫌がる佑月に無理やり捩じ込んで、須藤とて楽しくなかったはずだ。
気持ちが伴わないセックスはエクスタシーを得る事が出来ないと、誰が言ったのか。
だがそれほどまでに、今回のことが須藤にとっては、許容出来る範囲ではなかったことが、佑月も嫌というほどに痛感した。
「っ……まだムリか……」
起き上がろとしたが、骨が軋む程で、仕方なく佑月は背中を丸めてやり過ごす。
「……一時?」
暗闇の部屋。
佑月はナイトテーブルにある時計に目を凝らす。
「もうそんな時間……」
須藤は何処に行ったのか。シャワーでも浴びているのだろうか。佑月が目が覚めて隣にいないのは、朝以外では初めてだった。
その時、部屋の扉をノックする音が響いた。 須藤ならノックなどしない。このマンションに入れる人物は限られているが、わざわざこんな時間に誰が来たのか。
佑月が上掛けのシーツを顎まで引っ張り上げた時、申し訳なさそうなノックが再び鳴った。
「成海さん、起きておられますか?」
遠慮がちに掛けられた声は聞き覚えのありすぎる声。佑月は少しパニックになってしまう。
「あ……その、はい、起きてます」
(起きてますが、俺、全裸ですが……)
布団の中とはいえ、居たたまれないことこの上ない。声の主だって、こんなところは絶対見たくないはずだ。
「申し訳ございません。失礼します」
一人焦る佑月を余所に、ガチャリと扉が開き、かっちりとスーツを身に纏った真山が慇懃に頭を下げて寄越した。
「ど、どうかされたんですか?」
咄嗟に佑月は上半身を起こそうとしたが、真山は「どうか、そのままで」と制して、話しやすい位置へと、すなわちベッドサイドまで足を運んできた。
そして真山は、自身の手荷物にしては珍しい、小さな紙袋をベッド脇に置いた。それを目で追う佑月に「こんな時間に申し訳ございません」と、再び頭を下げてくるが、佑月の中では疑問符ばかりが頭に浮かんでいる。
「い、いえ……。こちらこそすみません、こんな……」
こんなあられもない姿を晒してる自分。まともに真山の顔を見ることが出来ない。上掛けのシーツを頭から被りたい気分だった。
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