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最悪の 14

「その……須藤さんは……?」  真山がこのプライベートルームである寝室に入って来たということは、須藤はこのマンション内にはいないのだろう。  今まで何があっても絶対に、寝室までは誰も入っては来なかった。あのプチ監禁の時でさえ、誰一人として部屋にまでは入ってくることはなかったくらいだ。それなのに、真山が部屋に入って来たということは、須藤に命令されたからだ。 「……ボスは今夜は帰ってこられません」  少し気まずそうなその声音に、佑月は〝あぁ……そうか。もう、俺の顔も見たくないんだ〟と納得した。 「そう……ですか。すみません。直ぐに着替えて出ていきますので」 「違います。成海さん」  慌てて起き上がろうとした佑月の両肩を、真山はまさに咄嗟にといった風に、押し止めた。  どさりと押し倒される形になって驚く佑月を見て、真山は我に返ったように慌てて頭を下げた。 「も、申し訳ございません」 「いえ、大丈夫です」  いつも完璧で、初めて見た時はまるでロボットのようだと感じていた真山。無表情でいることが多くて、一見すると冷たくも見え、いつでもどんなときでも冷静沈着な彼。  そんな真山が、僅かながらも取り乱している様は、押し倒された行為よりも佑月は驚いたかもしれない。佑月の視線を受けて、真山はばつが悪そうに咳払いを一つして、直ぐにいつもの完璧な彼に戻った。 「実はボスから、言付かってることがございます」 「須藤さんから……」  何を言われるのかと、佑月の心拍数は急激に上がっていく。 恐らくいい話ではないだろうと、佑月は汗が滲む手のひらをギュッと握りしめた。  そして真山から語られた言葉は、想像だにしなかったことだった。 「そしてこちらが、ボスから預かってきた物です」  ベッド脇に置かれていた紙袋を差し出され、 佑月は小さく首を傾げながら受け取った。  そして中身を見て、弾かれたように佑月は真山の顔を見上げた。 「これって……」  真山は佑月の疑問に丁寧に答えてくれた。そしてその内容に少なからず動揺する佑月がいた。 「そちらの用途についてのご説明は大丈夫でしょうか?」 「……はい、分かります。これは……」  二種類ある機器のうちの一つに触れながら訊ねる佑月に、真山は頷く。 「これからはでお願いします」 「分かりました……ありがとうございます」  重いため息を吐いて紙袋を抱きしめる佑月に、真山は少し辛そうに眉を寄せていた。

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