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最悪の 16
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こういう時、サラリーマンじゃなくて良かったと、佑月はしみじみと思った。
酷い倦怠感に腰痛、後ろの痛み。こんな状態で朝から満員電車に揺られて出勤するなんて、考えただけでゾッとしたからだ。
真山が佑月を迎えに来たのは九時半過ぎ。それでも情けないことに、佑月の身体は、気を抜けば崩れてしまいそうな体 たらくだった。真山が心配そうに、何度も手を差し伸べようと葛藤していたくらいに。
立ってるのはまだいい。椅子に座るのが苦痛なのだ。ドーナツクッションが欲しいとか真剣に思ってしまう。そんなことを考えてる自分にハッとして、佑月は頭を軽く振った。
今は自分の身体のことを考えてる場合ではないだろうと。
「佑月先輩、やっぱりオレも反対です」
「オレもです!」
「私もです!」
喫茶店【虹】に響く三人の声。
客は佑月たちしかいないから、誰に聞かれる心配はないとはいえ、佑月は人差し指を口元で立てた。
「あ……すみません」
陸斗らはチラリとマスターを見遣って声を落とした。マスターは聞き耳を立てることなどしない人だが、話す内容が内容だけに、あまり聞かれたくないのが正直なところだった。
今日は夕方まで仕事が入ってないため、こうして【虹】に訪れ、佑月は皆に今回のことを話して聞かせたのだ。
もちろん心配を掛けたくない事柄もあり、所々と伏せてるが。特に昔、円城寺にされていたことを話すことはしなかった。
だが、佑月が嫌悪感を抱いていることはしっかりと伝わってるようで、三人は今回の件に反対の意を示してきた。
気取られないようにしていても、やはり染み付いた嫌悪は、ちょっとやそっとでは払拭出来ないことを佑月は痛感する。
「何もあの男に全て従うわけじゃないから。さっきも言ったように、あいつの悪行とやらを暴いてやりたいんだ。それには皆の協力を仰がなくちゃならないんだけど……」
「協力ならいくらでもします。でも佑月先輩一人が危険な目に遭うのは、やっぱり認められないっす」
海斗の言葉に陸斗と花は大きく頷く。特に海斗は円城寺を直で見ている。
佑月らの関係が決して良好でないことを目の当たりにしてる分、態度は頑ななものだった。
「あんな男に仕事を邪魔されたんだ。ムカつくだろ? だからあいつの伸びきった鼻をへし折ってやりたいんだよ」
それから佑月は懸命に説得し、なんとか了承を得られることが出来た。海斗は直接関わったことで、佑月のセリフには感じ入るものがあったのか、渋々とだが頷いてくれた。
いつもいつも巻き込んでばかりいるメンバー。佑月の勝手な言動にも関わらず、結局は折れて応援し、協力してくれる三人には、本当感謝の言葉では言い表せない。
だから、行動で示して、三人に被害が及ばないように守りたい。佑月一人では難しいこともあるのが実情でもあるが。
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