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最悪の 17

 少し和やかになった空気の中で、佑月の上着のポケットに入っている物が振動を伝えてきた。 「あれ? 成海さんスマホ変えたんですか?」  目敏(めざと)い花は佑月のスマホを、まさに爛々といった風に見つめてきた。 「あ……うん。プライベート用にもう一台持つことにしたんだ」 「そうなんですか! 珍しいですね。あ、良かったらそっちの番号教えて欲しいです!」  戸惑う佑月を余所に、花は鞄からスマホを出して、既に入力操作万端といった風に待ち構えていた。そんな花に佑月は自然と笑みがこぼれる。 (……別にいいよな?)  信頼の置ける友人でもあるし、断る理由もない。  佑月は先程届いたメールは今は開けないで、自分の番号を呼び出した。 「なら、もちろんオレらもお願いします」  陸斗と海斗は慌てたように、スマホを出してきた。 「どうぞ」  番号が映し出された画面を三人は一斉に覗き込み、スマホに入力していく。みんな機種が様々だから、赤外線も、機能も使えない。 「じゃあ、私から鳴らしますので登録お願いしますね!」 「次はオレです」  各々順番を決めて次々と着信を入れていく。  佑月は三人のものを登録し終えると、暫くは【虹】で滞在してから皆で事務所へと戻った。  事務所に入ると、外と違わぬ冷気にぶるりと佑月の身体が震えた。直ぐにエアコンを入れると、室外機が低い唸り音を上げる。 「はぁ……寒い。直ぐに温かいお茶淹れますね」 「ありがとう」  花が給湯室に入るのを見送って、佑月は直ぐにデスクに行くとパソコンを立ち上げ、予約がないか確認した。 「無いか……」  休む間もないほどに仕事に打ち込みたいと思ってる時に限って、なかなか仕事が入らない。  そうは言っても、佑月にはやらなくてはならないことがあるのだが。

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