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最悪の 19

 一日の仕事を終え、佑月は一人になった事務所内で、二台ある内の黒のスマホを上着から取り出した。 「そうだ、メール」  バタバタとしていたため、返事をするのを忘れていた佑月は、差出人にメールを送った。そして帰り仕度をしていると、直ぐに返信が来て佑月は少し驚いた。 「……珍しい」  なんて呟きながらも、返信を見て半ば表情筋が緩むのを自分でも感じた。今の佑月にはどんな内容であれ、相手から貰えるメールは嬉しかった。 「さて、帰るか」  佑月は事務所の鍵を掛けて、ビルの階段を下りていく。  ここでは、ビルに入ってる店の従業員やお客さんとはあまり会うことはない。ところが珍しく階下から、階段を上がってくる靴音が響いてきた。  二十一時を過ぎた時間。【J.O.A.T】の事務所がある二階から上は、小さな会社が数件とカラオケボックスがある。  時間を考えれば、カラオケに来た客だろうが、普通ならエレベーターを使うはずだ。佑月が少しの疑問を感じていたとき、その靴音の主が現れた。 「っ……」  ただ人とすれ違うとだけしか思ってなかっただけに、自分の目の前にいる人物を見て、佑月の心臓が跳ね上がった。 「……なんで……」  佑月の問いに、目の前の男は愉快そうな笑みを浮かべてきた。 「他の従業員は帰って行ったのに、佑月が遅いからね。迎えに来たんだよ」 「……迎え? 何でですか。約束は明後日の日曜からでしょ?」  佑月は嫌悪を隠さず眉をひそめるが、男は意に介さず笑みを向けてくる。 「少しでも早く佑月と会いたかったからね」 「約束くらい守って欲しいですね」  吐き捨てるように言い、最も嫌悪する男、円城寺の傍らを通り抜けようとした時、佑月はいきなり右腕を掴まれ、僅かに引き寄せられてしまった。

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