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最悪の 20

 全身に走り抜ける悪寒。  瞬間的に佑月が腕を振り払うと、円城寺はあっさりとその腕を離した。 「なら、家まで送ろう」 「結構です」  顔も見たくない佑月は直ぐに背を向けて、階段を下りていく。だが「遠慮しなくていい」と、明るい声が返ってくる。  この男の思考回路には辟易とする。どこをどう見れば、遠慮しているように見えるのか。思わず“馬鹿なのか?”と佑月は口をつきそうになった。 「また明後日に出直して来て下さい」  今度こそ帰ろうと階段を下りようとしたが、再び腕を掴まれる。 「何なんですか?」  苛立ちを含んだ大きな溜め息を吐いて佑月は腕を一瞥するが、余計にグッと力を加えられてしまう。 「そんなに邪険にしなくてもいいんじゃないのかい? 私は佑月と離れていた時間を取り戻したいのだよ」 「俺はこのあと予定があるんです。日曜日にはゆっくり話せるでしょ?」  予定などないが、こう言えば大抵は引くはずと佑月は言う。 「私は今すぐにでも一緒にいたいんだよ」  期待通りの返事をしない円城寺に、佑月は舌打ちをしそうになる。 「本当に離して下さい。大声出しますよ」  佑月の苛立ちがピークに達した時「あれ?」と不意を討つ声が聞こえてきた。  声の主に顔を向けると、佑月は驚きで思わず目を見開いてしまった。 「え? あれ……どうしたんだ?」  そう問いかけた相手は、円城寺を怪訝そうに見ながら「……いや、ユヅに会いに来たんだ」と、しまいには円城寺を睨み付け始めた。 「あ、ごめん颯! わざわざ迎えに来てくれたんだね」  目の前にいる気が置けない男、颯なら直ぐに臨機応変に返してくれるだろと、佑月は期待しながらも目で訴えた。 「お、おう、そうだよ。遅いしさ心配になって」  さすが、颯! と心の中で佑月はgood job を送った。  佑月は円城寺の腕を振り払って「では、失礼します」と慇懃に頭を下げる。そして颯の腕を取って、一気に階段を駆け下りた。 「待ちなさい佑月」  そんな声が背後から聞こえたが、素直に待つ奴なんていない。佑月と颯は駅前までの通りをひた走った。  細い路地に入ってようやく佑月らは足を止め、来た道を覗き見する。追い掛けて来てる様子はなくホッと息をつく。 「……颯、悪かったな。巻き込んで」 「いや、それは全然いいんだけど……。何なんだよ、あのオッサン」  息切れしている佑月と違って、颯は軽く息が乱れてる程度。同い年なのに、この体力差にはほとほと嫌になる。  その颯は嫌悪を滲ませた顔で、佑月に詰め寄ってきた。どう説明すればいいのかと、佑月は頭の中で必死に考えを巡らせる。  心配掛けるのは分かりきってるし、掛けたくない。だから本当のことは言えない。颯には悪いが誤魔化すしかなさそうだ。

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