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予想外 4
佑月はもう少し探るように樹の表情を窺った。そんな佑月に焦れるように揺れる樹の目。
でもそれは、好奇心故の焦りではなく、心配しての苛立ちのようなものに感じた。
「……母とあの人は……恋人同士だったと思う」
だからか、佑月の口からは躊躇いがちにも言葉が出ていた。
「恋人……同士?」
明らかに怪訝な面持ちになった樹に訊ねられ、佑月は疑問に思いながらも小さく頷いた。
「本当に恋人同士だったの?」
まるで信じてないその口調に、なぜここまで疑うのか、佑月は更に不可解な気持ちになる。
だが改めてそう訊ねられると、あの二人は本当に恋人同士だったのかと、佑月は自信が無くなってきた。
何せ当時、佑月はまだ小学生の低学年だった。母親に大切な人だと紹介されれば、それを疑う余地はなかっただろう。
それに今思うと、母と円城寺が二人で一緒に出掛けるというところを、見たことがないような気がした。
時々現れて、自分に近付いてくる。佑月には“家族”だと言っていたが……。
「何でそんなこと訊くの?」
「だって……アイツは……」
少し躊躇したのち、樹は意を決したように真っ直ぐに佑月へと顔を上げた。
「アイツが女と付き合うなんて考えられないよ」
「……」
佑月はその返答に軽い目眩を覚え、眉間を指でもんだ。
「それって……根っからのってことだよね?」
「そう。まるっきり女はダメ」
やっぱりそうなのかと思う中、まるっきり女がダメな人間が、何で母とという疑問が湧く。
一体当時の二人の関係は何だったのか。今更知ってもどうにもならないことだとは、佑月も分かっている。
だが、あの男がなぜ母に近付いたかの理由が知りたくなる。
当時のことを訊くにも母はいない。だからと言って、あの男に直接訊いても、正直には答えないだろう。誰か当時のことを知る人間がいればいいのだが。
「よく知ってるんだね。そもそも樹くんこそ……その彼とはどういう関係なの?」
「……関係」
途端に樹は、苦虫を噛み潰したかのような渋面を作った。
嫌悪感を隠すことのないその様子に、佑月はあまり深く追求しない方がいいのかもと思い直す。
「ごめん……言いたくなかったら言わなくていいよ」
「いえ……」
“いえ”と言いつつも下唇を噛み、樹は俯く。無理強いをするのは良くないなと、佑月が口を開きかけた時、その顔が佑月へと向けられた。
その目には何か大きな決心が見えた。
真っ直ぐに向けられる目に、佑月は興味本位なのではないのだと、その意志を伝えるように見つめ返した。すると荒れの知らない樹の綺麗な唇が、薄く開く。
「僕は……アイツの道具みたいなものなんだ……」
「……道具」
想像だにしなかった言葉が、佑月の胸に突き刺さり痛みを伴う。
まだ高校生である彼が、自らを道具などという言葉で表すなど、一体どれ程のことなのか。他人である佑月には計り知れない。
こういう繊細な事には気を付けなくてはならないのに、円城寺が絡んだだけでそれすらも忘れてしまう。
無神経に聞き出したことに、佑月は早くも後悔の念に駆られていた。
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