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《Background》 3
そしてそんな中での佑月の固い意志。
佑月は自分で決めたことは、よっぽどの事がなければ引かない。
しかも今回は【J.O.A.T】の従業員も絡んでいる。責任感の強い佑月の事だから、身内のことは自分で解決したいと思ったのだろう。その意志は、須藤とて尊重してやりたいとは思っていた。
だが、絡んでる相手が悪かった。もう二度と関わらせたくない人間なのに、佑月は自ら飛んで火に入る愚かな蝶となった。
そもそも佑月が、自分以外の人間に目を向けること自体が、腹立たしいというのに。あの美しい瞳が円城寺に向けられていると考えるだけで、腸が煮えくり返る思いだ。この独占欲はどうにもならない。
だからあの晩、須藤は佑月から語られた話に、激昂を抑えるのに随分と苦労した。
日が経てども怒りが収まらない須藤は、リアンを呼びつけた。今度また佑月を巻き込むことがあれば放ってはおかないとは思っていたが、今回ばかりは無視など出来なかった。
須藤に呼ばれたリアンはさぞ嬉々としていただろう。だがそこは須藤本人がいない、とある倉庫だった。
『あれ? 須藤さんは?』
『あの方が、お前ごときに時間を割くわけがないだろうが』
『……どういうこと? 須藤さんがいないなら、僕は帰るよ』
須藤に会えると思っていたリアンは、大いに落胆した。
『帰れるとでも思ってるのか』
『な……』
リアンに全ての状況を把握する時間を与えぬかのように、そこで待っていたのは、謂わば制裁だった。
須藤の部下には拷問を得意とする人間がいる。その男による拷問は、普通の人間なら余りの苛酷な攻め苦に耐えられず、精神も壊れてしまうようなもの。
リアンの細い躰では、その苦痛は相当なものだったはずだ。
だがその中でも、リアンはうわ言で何度も須藤を呼んでいたようだ。そんなリアンの執着心には、さすがの須藤も薄ら寒いものを感じた。
今はリアンは満身創痍の身で動く事が出来ず、須藤は信頼の置ける平田という医師にリアンを預けている。佑月も一度、USB関連の際に会ったことがある医師だ。
平田に預けるとは言っても、リアンを治療するためではない。平田の病院に拘置しているだけにすぎない。
これで暫くはリアンも動けないだろう。
さすがに懲りたとは思うが、もし再び動くようなことがあれば、きっとリアンも死んだ方がマシだと、今度こそ身をもって知ることになるだろうが、今後のことは誰にも分からない……。
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