303 / 444

真実1 2

「イロ?」  佑月がわざと少し睨むようにして言うと、柿田はあからさまに焦った顔を見せた。 「い、いや……気を悪くさせたなら悪かった。でもよ、須藤がアンタを囲ってるってのは、ここら界隈では周知のことだからな……」  乾いた笑い。まるで佑月の機嫌を損ねないような必死さ。やはり見たところ、柿田が演技をしているようには見えない。  本当に今回ののことは知らないようだ。だとしたら、円城寺や例の事務員風の女とは、あまり深く関わっていないのかもしれないと、佑月は踏んだ。 「そもそも、嵌められたのはこっちだったんだ」 「え?」  要領を得ない柿田の突然のセリフに、佑月と海斗はお互いに顔を見合せた。 「どういうことだよ?」  ずっと黙っていた海斗が、堪らずと口を開く。 「あのUSBだよ。今じゃアンタは須藤と仲良くやってるようだが、あの時はアンタらも、単に巻き込まれてただけだろ」 「USB?」  今さらなぜUSBの話なのか。確かに佑月は依頼を受けた事で、巻き込まれたことには間違いないが。それを今わざわざ持ち出す話ではないはず。  佑月の眉間には深い溝が出来る。それほどまでに柿田のセリフが不可解だった。 「そうだろ? あのUSB自体がダミーだったじゃないか。それにまんまとオレらは騙されてただろうが」 「ダミー……?」 (どういうことだ?)  あの預かっていたUSBがダミーなど、佑月には知る由もないこと。海斗も知らなかったようで、驚いている。 「ん? まさかとは思うが知らなかったのか?」  今度は柿田が驚く。 「知らない……。なんでダミーなんだろう?」 「何でなんすかね……。当時、須藤だって結構マジで動いてませんでした?」 「うん……」  そこで佑月はふと何かに思い至る。  あれがダミーだと言われれば、少し納得出来る事があったからだ。  ダミーだったからこそ、須藤は余裕でいられたに違いない。あれが本物なら、佑月とて無事ではなかったはずだ。  でも一体何のために、そのようなことをしたのか。 「なんだ、てっきり聞いてるもんだと思ってたな」  柿田は意外そうに呟きながら、煙草を灰皿に捩じ込んだ。 「そもそもオレはある男に頼まれてたんだよ。【heaven】のオーナーには話が付いてるから、データを預かってこいとな」  どうやって訊き出そうかと佑月は一瞬頭を悩ませたが、柿田は得意気に話始めてくれた。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!