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真実1 2
「イロ?」
佑月がわざと少し睨むようにして言うと、柿田はあからさまに焦った顔を見せた。
「い、いや……気を悪くさせたなら悪かった。でもよ、須藤がアンタを囲ってるってのは、ここら界隈では周知のことだからな……」
乾いた笑い。まるで佑月の機嫌を損ねないような必死さ。やはり見たところ、柿田が演技をしているようには見えない。
本当に今回の噂のことは知らないようだ。だとしたら、円城寺や例の事務員風の女とは、あまり深く関わっていないのかもしれないと、佑月は踏んだ。
「そもそも、嵌められたのはこっちだったんだ」
「え?」
要領を得ない柿田の突然のセリフに、佑月と海斗はお互いに顔を見合せた。
「どういうことだよ?」
ずっと黙っていた海斗が、堪らずと口を開く。
「あのUSBだよ。今じゃアンタは須藤と仲良くやってるようだが、あの時はアンタらも、単に巻き込まれてただけだろ」
「USB?」
今さらなぜUSBの話なのか。確かに佑月は依頼を受けた事で、巻き込まれたことには間違いないが。それを今わざわざ持ち出す話ではないはず。
佑月の眉間には深い溝が出来る。それほどまでに柿田のセリフが不可解だった。
「そうだろ? あのUSB自体がダミーだったじゃないか。それにまんまとオレらは騙されてただろうが」
「ダミー……?」
(どういうことだ?)
あの預かっていたUSBがダミーなど、佑月には知る由もないこと。海斗も知らなかったようで、驚いている。
「ん? まさかとは思うが知らなかったのか?」
今度は柿田が驚く。
「知らない……。なんでダミーなんだろう?」
「何でなんすかね……。当時、須藤だって結構マジで動いてませんでした?」
「うん……」
そこで佑月はふと何かに思い至る。
あれがダミーだと言われれば、少し納得出来る事があったからだ。
ダミーだったからこそ、須藤は余裕でいられたに違いない。あれが本物なら、佑月とて無事ではなかったはずだ。
でも一体何のために、そのようなことをしたのか。
「なんだ、てっきり聞いてるもんだと思ってたな」
柿田は意外そうに呟きながら、煙草を灰皿に捩じ込んだ。
「そもそもオレはある男に頼まれてたんだよ。【heaven】のオーナーには話が付いてるから、データを預かってこいとな」
どうやって訊き出そうかと佑月は一瞬頭を悩ませたが、柿田は得意気に話始めてくれた。
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