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真実1 5

「さぁな。オレら柿田組は、その件でしか関わってねぇからな。交流なんてもんもねぇし分からんな」 「え?」 「だってそうだろ? あんな散々な目に遭ったんだ。いくら美味しい話があっても、もう二度と関わりたくねぇな」  佑月と海斗は思わず顔を見合わせた。今日の真の目的であった答えを、こんな形で聞けたことに少し呆気に取られた。  もしかしたら真実は得られないかもと思っていただけに、これは運がいいとしか思えない。 「それで? 話がだいぶ脱線しちまったけど、アンタらが訊きたかった話ってのは一体何なんだ?」  ここが組事務所だということを失念してしまうほどに、組員らの警戒モードはすっかり解けている。 「ええ、実は、あなた方が所有している◯◯ビルのことですが、最近どなたかにお貸ししたことはありますか?」  そう佑月が訊ねるや、先ほどまでの雰囲気は一気に消え、やくざの顔をしっかりと露にしてきた。 「何でそんなことを訊く?」  柿田は探るように佑月の表情をじっと睨み据えてくる。でもやはり須藤の陰に怯えてるのか、セーブしているのが分かった。 「最近の依頼なんですが、うちを訪ねてくれた八十代くらいの男性の住所が、あなた方所有のビルの一室となってましたので。住まいとして利用するのには、年配の方には向かないので、少し気になりまして」  依頼だということを佑月が強調して言うと、柿田は目に見えてホッとした顔を見せた。 「八十代? 誰だ?」  柿田は心当たりがないのか、部屋にいる組員を見渡していく。が、組員も知らないのか各々首を振っている。 「島田と名乗ってましたが」 「島田? 知らねぇな。だが、知り合いの男には貸したな。そいつが島田って男に貸したのかもな」  隠すつもりはないのか、あっさりと言った風に答える柿田。恐らく、嘘はないだろう。  知り合いの男の名を、柿田の口から言わせたかったが、あまり深く追求すると、柿田も不審に思うだろう。ここらで引いた方が賢明だ。 「そうですか……。分かりました。それだけを確認したかっただけなんです。わざわざお時間ありがとうございました」 「なんだ、それだけを確認するために、わざわざここまで来たのか。ご苦労なこったな。ま、オレとしては美人を堪能出来て良かったがな……っと、すまねぇな」  海斗が睨んでいたのだろう。柿田は海斗を一瞥して肩を竦めて見せた。

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