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真実1 6

 だが柿田は名残惜しそうにチラチラと、佑月に視線を寄越してくる。そんな柿田に気分が良いとは言えず、佑月は直ぐに腰を上げ、海斗ともに事務所を辞した。  しかし、柿田が物事を深く考える人間でなくて良かったと、佑月はしみじみと思った。やくざならもっと根掘り葉掘りと、問い質さなきゃならない部分はあったはずだからだ。  でもそのお陰で、ここまで来た甲斐があった。向こうがペラペラと喋る人間だったのが、本当にラッキーだった。  それに、あれだけ須藤の陰に怯えているのなら、きっと柿田からは今回の事は漏れないだろう。少し楽観視し過ぎかもしれないが。 (まぁでも、漏れた時はその時だ) 「やっぱりあの一室を借りた男って、あの男ですよね?」 「うん。恐らく間違いないと思う」 「あの男が絡んでること、今まで全く気付かず、すみませんでした。情けないっす」  肩を落とす海斗の頭を、佑月は元気付けるように軽く叩く。 「何言ってるんだよ。俺だって今まで確信が持てなかった事なんだぞ? それに俺も黙ってたから、海斗らには知る術なんてないよ」 「でも……」 「それに、知ってたのは……あの人だけだったんだし」  見当違いの責任を感じて欲しくなくて、佑月は重くならぬよう、努めて明るく言う。 「そうですね……」  海斗は渋々ながらも納得してくれたようだ。

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