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真実1 7

 まだあれからそんなに日にちは経っていないと言うのに、もう長く顔を見ていない気がする男の顔を、佑月は思い浮かべながら、過去に言われた言葉を思い出す。 『それは“こっち側”の問題だ。お前は気にする必要はない』 『こちらの世界には踏み込むな』  初めから佑月に関わらせないようにと、肝心な事はひた隠しにされてきた。そうやって佑月は、ずっと護られてきた。  だが護られてばかりで、須藤の重荷にはなりたくはない。例えが間違っていたとしても、そして後悔することになったとしても。今の佑月は、そう、必死になっていた──。 「それじゃ佑月先輩、話はまた明日にでもゆっくりとしましょう。オレはこのまま直接兄貴との待ち合わせ場所へ行ってきます」 「うん、気をつけてね」 「先輩こそ気をつけて下さいよ! では、少し早いですけど、お疲れ様っす!」 「うん、ありがとう、気を付けるよ。じゃあ、お疲れ様」  佑月はこの後、樹と会うことになっている。その後にもう一件、佑月一人での依頼が入ってるため、事務所には戻らない。  海斗らもそのまま直帰するように伝えてあるため、まだ夕方だがお互いに早いお疲れ様の挨拶を交わしたのだ。  満面の笑みで手を振る海斗に、同じように手を振り返す。寒空の下でもあの笑顔は、佑月の心が温まった。  樹との待ち合わせ場所は、樹の家だ。あの豪邸に再び訪れる事になるとは、あの時は全く想像もつかなかった。  今日は母親が友人と出掛けている様で、帰りが少し遅くなるとのこと。  その丁度良いタイミングもあって、昼前に樹から連絡があったのだ。明るい話題なら足取りも軽くなるが、そうじゃないことが分かっているため、佑月の足取りは重い。 「成海さん!」  安部邸まで後数十メートルかという高級住宅地の道すがら。後ろから声を掛けられ佑月が振り向くと、思っていた人物がいた。

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