309 / 444
真実1 8
「樹くん。もしかして今帰り?」
制服に鞄。いかにも下校スタイルの樹は「はい」と僅かに笑顔を見せた。
「会えて良かった。いま家には誰もいないし、待たせちゃうところだった」
「そっか。タイミング合って良かった」
家まで他愛ない話をして、豪邸へと招き入れてもらうが、やはり少し圧倒されてしまう。
円城寺邸と比べると小さいが、それでも立派であることには間違いない。
玄関までに続くアプローチは、グレーとホワイトの上品な石畳。左右に広がるガーデンは、色とりどりな花が咲き誇っている。
ホワイトのレンガ造りのミルクリークはライトアップされ、一層華やかさが増している。
まさにハリウッドスターなんかが住んでそうな外観だ。
その外観に負けず劣らず、内装も調度品もセンスが良くて、薦められるソファに座るのも緊張してしまうほどだ。
だが円城寺邸とは違い、嫌悪感なんてものはもちろん無いから、二重苦にはならない。
「成海さんならもう気付いてるかもしれないけど……僕とアイツの関係」
時間が惜しいとでも言うように、着替えることもせず、樹は早速本題に入った。
今日の話題は樹にとって、重苦しいはずだが、わざわざ改まって後日に会うことになったのは、きっと自分に何か伝えたい事があるからだ。だから何を聞かされても、樹の言うことは信じようと思いながら、佑月はゆっくりと頷いた。
「僕とアイツが……正真正銘の親子だってこと、驚いたでしょ?」
昨日聞いた時は、まさかと思いながらも樹の言葉には嘘が感じられなかった。
だから、辿り着く結論はそれしかなかった。だけどと、どうしても疑問が残る。
「正直に言うと驚いたよ。でも、円城寺は女性は全くダメだって、樹くん言ってただろ? 結婚もしていないと聞いたし。まさか……」
思いきった事を訊いている自覚はある。でも、樹もそれは想定していることだろう。
「そう、そのまさかだよ。体外受精ってやつ。女とセックスしなくても、それなら子供は出来るでしょ?」
想定しているとは思ったが、こうもあっけらかんと答えられると、佑月も素直に頷くしかなかった。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!